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貴方に向かう愛を拾う


私の隣で座っている人をちらりと見ながら、グラスを軽く揺らす。
横にいる上司が「飲みに行こうよ」なんて言うから来てはみたものの。
何と言うか、私はここに居てもいいのか・・・なんて思えてしまうほど、浮いている気がする。・・・・・・普通は飲みに行こうと言われれば、思い浮かぶのは居酒屋だと思う・・・はずだ。

「まさかそれがこういうお洒落な所だとは・・・。」

まぁ、酒場と言ったら酒場なんでしょうけど。
そう呟いたのが聞こえたのか、「ん?ナマエちゃん、どうかしたの?」と聞いてきた大将に、なんでもないです。と返しておいた。

「で、なんですか。」
「え、何が?」
「いや、ですからね。なんでまた飲みに行くというお話になったのかと思いまして。」
「・・・・・・・・・えーじゃぁ、親睦会ってことで。」

理由を聞いてみれば、少しの間の後に明るい声で返ってくる返事。

「親睦会って・・・知り合って間もない人間同士じゃないんですから。」
「でもさ。」

そう呆れて言えば、真剣な顔をした大将がこちらをじっと見ている。何も言えず、自分の体なのにどこも動かなくて。

「昔は『クザンさん』だったのに、今は『クザン大将』でしょ?」
「・・・っ・・・あー。」

ばれてたんですね。と言えば、「当たり前じゃない。」と返ってくる言葉。

「・・・・・・なんだ、ナマエ。もしかして、おれのこと嫌いになっちゃったとか?」
「まさか!あーほら、あれですよ。『親しき仲にも礼儀あり』ってやつです。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・そう、なら良かった。」

そう言って穏やかに笑う大将に、体の内側がずきずきと痛みを叫ぶ。一応笑い返してみたつもりだけど、きちんと笑えているかは些か疑問だけど。そう冷静に考えている半面、アルコールで満たされ始めた私の頭は、ぽろりと口から言葉を出していた。

「すきですよ。」
「え?」
「・・・その、こんな部下に、気を使ってくれるところとか。仕事サボるのはやめて欲しいですけど。」
「えっと、ナマエちゃん?」
「他にも、意外に公私混同していないところとか、すきです。尊敬してます。」
「あー・・・あはははは。なかなかきっつい事言ってくれるじゃないの。」

そう言い終わった後、苦笑いをしている大将を横目に、出かかった言葉を水で押し戻す。
・・・こっそり陰で支えてくれるところとか、ぼーっとしているようできちんと周りを見ているところとか。苦手な人と話しているときに、あくまでもいつも通りに振る舞おうとしているところ。自分の苦手な食べ物をなるべく食べないように変な努力をしているところとか。・・・我ながらストーカーみたいだな。

「でもホントですよ。そういうところ全部好きですし。」
「んで、尊敬してる、と。」
「はい。でも好きですよ。」

今の私の言葉は全部本当で、この人に関することの大半が嫌いになれなくて、尊敬できて、でもそれ以上に好きで。貴方の良いところ、悪いところ、全部ひっくるめて貴方だと思うから。貴方との何気ない日常を、何でもかんでも全部、拾っていきたいのです。


貴方に向かう愛を拾う


(ナンパしてる貴方も嫌いじゃない、なんて言ったら、貴方もみんなも呆れるんだろうな。)

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