ショート | ナノ
Blue in the Future


「マルコさん、お誕生日おめでとうございます。」

そう言って渡されたのは結構デカくて、そこそこに重量のあるやつ。
手で横がつかめるから持ちにくいということはないが、布に包まれたこれに、少し興味がわく。

「ナマエ、これ。何が入ってるんだよい。」
「・・・私が描いた絵です、けど。」

そんなにうまく描けていないですから、アレかもしれませんが。と言っているナマエに、そんなわけあるか。と反論しながら袋を取っていく。
なにせ、こいつは芸術家だしな。ヘタと言うことはない。
以前は綺麗な街並みとかモビーの銅像、海をモチーフにした風景画など、芸術の事なんざさっぱりのおれにも、上手いと思えるぐらいだ。
・・・まぁその反面、よくわからねぇ作品もこいつの部屋の中にゴロゴロしているんだが。
何と言うか、芸術っていうのは・・・その・・・奥が深いんだと、適当に解釈した覚えがある。

「・・・・・・開けないんですか?」
「あ、いや・・・急かせるなよい。」
「途中で手を止めて何か考え始めるから・・・なんか不味かったのかな、と思いまして。」
「・・・別に、何も悪くねぇよ。」

若干バツが悪い思いをしながら、袋を一気に外す。
そして少し黄みがかかった袋を外した先には、青色の世界が広がっていた。


「・・・・・・すげぇな。」
「そうですか?そう言ってもらえるなら、渡したかいがあったってもんですよ!」

上手くは描けてないが、気に入っている作品の一つなんだと、嬉しそうに語るナマエ。
その声をバックに、おれはカンバスに広がる青い世界を眺める。
ただその青は、『青』という言葉の括りに入れてもいいのかと、戸惑ってしまうようなそんな色で。
カンバス一面に塗られているそれは、一面同じ色ではなくて、いろんな色と混ざり合っている。
何も輪郭は無いし、何かを描いているように見えるわけではない。
それでも、この絵は生きている。そんな気さえしてくる。
しばらくしてもこの、吸い込まれそうな青から目を離せないまま、ぽつり、と思ったことを口にする。

「綺麗だよい。」
「えへへ・・・喜んでくれたみたいで良かったです。」
「でも、なんでまた・・・?」
「あ、もしかして・・・マルコさんのちゃんとした自画像の方が良かったですか?」
「それはやめろよい。」

自分の肖像画をおれの部屋に飾る気はさらさらない。
むしろやるわけないだろ。笑われるのは目に見えている。あと、おれはナルシストじゃない。

「ん・・・『ちゃんとした』?」
「あ、だってそれ。マルコさんをモデルに描きましたから。」
「・・・・・・ああ、抽象画ってやつかよい。」

もしこの黄色が入っている部分がおれの髪の毛だ・・・とか言われたりしたら、どう反応していいのか困る。
そんなことを考えていると、目の前のこいつは「違いますよ。」ときっぱり言った。

「マルコさんのあお、です。」
「おれの・・・青?」
「はい。不死鳥のときのを私なりに描いたんです。」
「・・・確かにこんな色してたような気はするが・・・よく見てるんだな。」
「そりゃぁ当たり前ですよ!芸術っていうのは、自分の好きなものや言葉にできないことを表現するんですから!」

それに被写体を愛してないと、良い作品って描けないですし。とにこやかに笑うナマエ。
『大人の余裕』と言う名の笑みを張り付けて、「へぇ。」と返事を返していたおれは。
その落下してきた爆弾に、一瞬止まってしまう。


「あー・・・ナマエ?」
「あ!そ、その、『そんな大層なこと言うんじゃねぇよい』って言いたいでしょうけど・・・!えっと、私の持論なんで、気にしないでください!」
「いや、そんなこと言わねぇよい。・・・って、違ぇ!おれがお前に言いたいのは・・・!」


ブルーインザフューチャー!


(おーい、マルコにナマエ!お前らなにしてんだ?)
(あ、エースさん!今マルコさんにプレゼント渡してたんですよー!)
(へぇ、おれにもみせてくれよ!)
(・・・・・・エース。)
(ん、どうしたよマルコ?顔、怖いぜ?)

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