恋なんかじゃない 「迎えにきたぜー、ナマエ!!」 ばん、とドアを壊す勢いで部屋に乗り込んでくるピンクの男。ため息をつきながらそれを相手にするのはもう何度目だろうか。 「ドフラミンゴ、ドアが悲鳴をあげてるわ。」 いい加減蹴り飛ばしながら開ける癖はどうにかならない物だろうか。ちらりと大きく壊れていないのを確認する。 「ドアより俺を見ろよ。」 「子供ね。」 「あァ、可愛がってくれよ?」 ああいえば、こういう、そんな男。 「馬鹿、」 「おれをふぬけた馬鹿にした女がよく言うぜ。」 恋をすると人は変わる・・・なんてロマンチストな台詞も彼がいうとわざとらしい。本気にすると痛い目を見るのはあきらかなのだから、適当にあしらって置くのが定石。 「私は、馬鹿にはならないわ。」 (私は 貴方を 間違っても 好きになんか ならない) 「いつまで意地を張るつもりだ、ナマエ?」 「じゃぁ、貴方は私のどこが好きなの?」 顔? 身体? それとも貴方に対するこの態度? 無い物ねだりの彼の事だから、どうせ思い通りにならない女が珍しいだけでしょう? 「気の強い所?」 「ほらね。だから、嫌いなのよ。」 「変な意味でじゃねぇぞ?なんか誤解してないか?」 別に性格がきついとか、そんなんじゃないなんて否定する彼。だけれども、私が怒っているのはそこではない。どう彼が答えたとしても、彼を信用できない私のずるさが嫌い。 「なぁ、どうしたら、おれを好きになる?」 珍しく弱気な男が私に問いかける。いつもは自分と相手を分かつ、色つきのサングラスは彼の手に握られていて。なにも通さない、まっさらな瞳が自分を見つめていた。 「なぁ、ナマエ?」 呼びかける声はいつもの高圧的な声ではなく、少し頼りない響きで鼓膜を震わせる。それにすこし絆されてしまいそうになった自分を叱咤し、彼の目を見つめ返す。 「私は、貴方の物には、ならない。」 (だって、貴方の物になったら、貴方は私をきっと見ないでしょう?) 貴方の中に少しでも自分が居るのだったら、どんな形でも構わない。好き合っている時間なんて、きっと思った以上にあっさり終わる。その時に、自分だけ惨めな姿をしたくないとプライドが自分を守るのだ。 「・・・そうかよ、また明日も来るからな。」 ふてくされたように彼はまた扉を蹴り上げて、部屋から出ていく。だがそれとは裏腹に安心している自分が居る。 (まだ、彼は私に会いに来る。) 顔に笑みを零しながらカーテンの隙間から彼の後ろ姿を眺めた。 「・・・ドフラミンゴ。」 名前を呼んだ瞬間、彼が一瞬振り向いて手を振ったので、私は顔を赤くしてカーテンを再度引くことになった。 「・・・馬鹿、はあたしの方、か。」 勝手に無理矢理連れて行くことも、彼にはできるのにそうしない彼。それが彼なりの誠意なのだと解っているけれど。きっと私がその呪文を唱えたら、全ての魔法は解けてしまうに違いない。ため息をつきながら小さくまた名前を呟く。それだけで少し楽になれる気がしたが、より一層苛まれる羽目になるだけだった。 「ドフラミンゴ、なんて、嫌い・・・っ」 こんな気持ちになるくらいだったら、さっさと居なくなってしまえばいいのに。嫌い、嫌い、なんて呟いていると、ドアがまた開いた。ただし、騒々しい音がしなかったので一瞬反応が遅れてしまった。 「おれにはお前の"嫌い"が"好き"って聞こえちまうくらい、イカレてるらしい。」 にかり、と口元を歪めて笑う彼。全て、心まで、この男はお見通しなのだろうか。 「ナマエ、まだおれが信用できないか?」 「・・・!!」 「なら、おれの傍でそれを確かめて見ろ。」 「・・・ ・・・ ・・・・・・嫌。」 時間をおいて絞り出した答えはかわいげの無い物だったが、染まる頬は止められない。それをみたドフラミンゴは唇の角度をを最大まであげて笑う。 「フフフ、今はその答えで良しって事にするけどな!」 「おっ、横暴!!」 「だって、海賊だし。」 「馬鹿っ!!」 恋じゃない恋じゃない恋なんかじゃ きっと もっと 不明確な 甘いもの back |