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悪食ボニータ


うちの船長は二つ名のとおり酷く大食いだ。まだ麦藁などの場合は伸びるからで終わる量も、うちの場合は一体どこに入っているのか解らない。体も太っている訳ではないから、不思議というか・・・。まぁ船長については皆だいたい知っているるだろうからこのくらいにしておこう。

それ以上に俺が不思議に思っているのは、船長室から出てこない船長の妹だというナマエのことだ。ナマエというのは、あまり表に出ないから知っているのはうちの船の奴らくらいだろうが、朝は早く起きるが食事は摂らず、昼は船室から出てこない。夜になれば船室から出てきて海に向けて歌なんか歌っていたりするが・・・一体何が言いたいのかと言うと、俺はあのナマエが食事を採っている所を見たことが無いし、食べている形跡も無いのだ。これはほぼ確実な情報である。なぜなら俺はこの船のコックを束ねるコック長なのだから・・・なんて考えながらもくもくと皿洗いをしていれば、船中に響く船長の声。


「飯ィーー!」
「ボニー、夜なんだから。」

嗜めるように横からのナマエの叱責が飛ぶ。掻き込むように綺麗に無くなっていく飯はコックとして清々しい気分だが、やはり船長の横に座るナマエは一口も食べ物には口を付けず、ワインだけ片手に船長を見ていた。

「ナマエさんは、食べないんで?」
「私はいいわ、ボニーが代わりに食べてるから。」
「ん、そうだな。アタシが後で食わせてやるから待ってろ、ナマエ!」

会話が成り立っていないようないるような。

「いやいや、何か食べないとまずいでしょうが!」
「問題ないって。」

うっかり、「なら仕方ないかー」で済ませそうになってからハッとして突っ込む。食べないで過ごせる人間など居ないのだから、なにか食べれるものがあれば作るのがコックである。例え酷い偏食だったとしても、まるきり食べないよりかは幾分かましであるはずだ。

「食べれるのあれば作りますけど。」
「だから!ナマエはアタシしか食べないってんだろ。このアンポンタン!!」
「ボニー!!!」


悪食ボニータ


「食べれないこと、無いんだけど。」

小さく呟いたナマエのリクエストが「血の滴る新鮮な生肉」「ワイン」だったのには目眩がした。あれ、もしかしてナマエさんって・・・

「あれ、・・・ナマエは吸血鬼だって言い忘れてたか?」
「あれ、じゃあ船長も?!」
「ん、なんでそうなる?」
「だって姉妹でしょう?」
「あ、そんな事誰が言ったんだ? だってナマエって、今年でひゃく・・・」
「ボニー!!いいから、もう黙って!」

顔を真っ赤にするナマエさんに、食堂に集まっていた一同がほっこりしながら笑えば、まぁなんてことはなくまた騒がしくて忙しい夕食の時間だ。

「・・・みんな、気にしないの?」
「アタシが良いって言ってんだ!異論なんてあるやつ居るか?」

船長が並べられた夕食を租借しながら叫べば、あちこちから笑い声。異論なんてある奴らはこの船には居ないだろう。

「なら問題無いな!」

と食べ物に集中しだす船長にナマエさんが照れながら何かを言っていたようだが、この騒がしい中では聞こえるはずもなかった。でも船長が酷く嬉しそうに笑っていたから、なにか良いことだったに違いないだろう。その様子をカウンターの中から横目に見ながら、厨房の喧騒の中に戻ったのだった。

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