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空に描いた君の名前


陶磁器のように白い肌、金色の瞳に金糸のような淡いブロンドを靡かせて俺の横に立つのは近所の洋館に住むホーキンスという男の子だ。最近弟子にしてくれと俺のまわりをちょろちょろしていて、大人しくするのを条件に今日は部屋に入れた。

「其処にいるのは良いが、触るなよ。」

口の大きな大鍋を身を乗り出すようにして見るホーキンスはぐつぐつと煮えたぎる中身を見ているようだ。かれこれ小一時間ほどじっと見つめているが、そうそう鍋の中身は変わることがないので、つまらなくないのか疑問である。

「・・・なんの、薬だ?」
「育毛剤だ。」
「・・・なんだ、」

毒薬かと思った、と口を開いた子供に口元を引きつらせて笑う。なんて物騒なことをいう子だ。突飛に「お前が魔法使いか、弟子にしてくれ」とか訪ねてくる子だからこの位、普通だというのだろうか。とりあえずまだ慣れない。

「地味だな。魔法は使わないのか?」
「使えるけど、ああいうのは対価がいるし。」

魔力だけで大きな魔法を使えば術師の魔力や体力の消費がひどく、失敗すると酷い目を見る。かといって悪魔や精霊との契約はリスクが大きいし、短期契約で生贄となると生贄の質や量などそろえるだけで一苦労なのだ。何事も魔法というと簡単なイメージだが、基本的に俺はめったに使わないほうの魔法使いだ。

「それに、ハイリスクハイリターンより間違いのない魔法薬のが確かだし。」
「・・・つまりお前は魔法が苦手な魔法使い、と言うわけだ。」
「使えないことないけど、教えるのとはまた問題は別だからな。」
「・・・ナマエ、」
「俺は居ることは許したけど、弟子入りは許可してないぞ。」

飛び回る室内飼の小妖精を捕まえて鍋の上で軽く揺する。キラキラとした粉を少量鍋に入れてかき回せば色が薄いピンク色に変わる。うん、成功だ。

「・・・俺には素質がないのか。」
「魔法使いって基本的には血だから魔力が無いと難しい。現に、これは見えないだろ?」

鍋に量以上が入らないように小妖精を手で包んで目の前に差し出せば、ホーキンスは目を瞬かせる。見えて・・・るのか??

「小妖精がどうかしたのか?」
「・・・・・・!!!」

まれに見える子も居るというが・・・この様子なら魔力も・・・いや、もう魔法には懲りているし、知識や恐怖のない子供に魔法を教えて死なれては俺も目覚めが悪いから、どちらにしても魔法なんてものを俺は教えるのは反対だ。

「・・・見えるなら教えてくれるのか?」
「魔法薬の調合法と、占いならな。」

そんなキラキラした目をして近づいてくる子供を邪険に出来ようか。おれはなんだかんだ言っても子供とか大好きだし。

「俺が知りたいのは、」
「パッとした魔法が知りたいなら他に行きな。」
「・・・魔法薬と占いだけでも、いい。」

後は自分でなんとかするし、と小さな声で聞こえたのは聞かなかったことにした。勝手に危ないことはしないと思いたいが、万が一のこともあるし禁書の棚には鍵をかけておこう。

「・・・でも一回だけ、魔法を見せてくれないか。」
「やけに今日は食い下がるね。だから魔法は・・・」
「今日は俺の誕生日なんだ。」
「・・・成程。」

魔法で誕生日プレゼントでも出してほしいのかと聞けば、鼻で笑われた。聞けば、ただどんなものなのか見たかっただけだという。まぁ誕生日だというなら簡単なやつなら良いか・・・。

「本当に何でも良いね?」
「くどい。」
「・・・それじゃあ、」

本と本の間にしおり代わりに挟んでいた己の杖を抜き出し、空に向けて放つ。綺麗に弧を描きながら空に向けて呪文を呟けば、杖の先からは閃光。空に迸ったそれは杖の描いた軌道そのままに白い線を描いた。

「・・・ホーキンス君、お誕生日おめでとう。」
「・・・ナマエ、本当に魔法つかえたのか。」
「失礼!!」

空に描いた君の名前

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