海を唄えば みんなが帰った後、一本道の終点で1人座ってお酒のボトルを傾けているのが見えた。微かに聞こえるのは海の唄。意味も分からずに歌った時は、複雑そうな顔をしながら止められたっけ。そう思いながら、その人の所へと歩いていく。足音をわざとだしながら。 「・・・どうしたのナマエ。」 「どうしたの、はこっちのセリフです。何してるんですか。」 お前ねぇ、見て分かんない?と聞かれ、一瞬彼の方を見て「分かりますよ。」と反抗してみる。 「クザンさんが感傷に浸ってます。」 「うそぉ、そう見えた?」 「・・・・・・クザンさん。」 「ん、何。」 こっちを見ずにそう言って、お酒をまた傾けているクザンさんの背中にもたれながら座る。 「私は、泣きますから。」 「ナマエ・・・お前、聞いてたの?」 「聞きたかった訳じゃなくて、聞こえたんです。」 「そう。」 そう言われた後、私は自分の膝に顔を埋めて「クザンさんが死んだら、私、絶対泣きに行ってやりますから。」と呟く。 「・・・ナマエ、おれさ。お前に泣いて欲しくないワケよ。」 「そんな話は聞きたくなかったです。」 そう言い放ちながら、さっきのクザンさん達の会話を思い出していた。確かに、泣くのは失礼かもしれない。 「でも、死んだら終わりですよ。格好良く居なくなったとしても、私はクザンさんの墓前で泣きわめいてやるんですから。」 「あーららら、そりゃ辛い。おれ的には、泣かないで欲しいんだけど。」 「そんな話は聞かなかったことにします。」 「そいつはひでぇ。」 「泣いて泣いて、泣きわめいて。それでも気が済まなかったらお墓を破壊して。」 「いや、ナマエ。最後のだけは勘弁して。頼むから。」 破壊するぐらいなら、さっきの歌、歌ってくれよ。おれ、あれ昔からキライだったけど・・・と言った後、お酒をかけ終わったのか瓶を地面に置いた音がした。 「・・・私はあの歌好きじゃないです、」 やっと鼻に届きだしたお酒独特の匂いを感じながら、その言葉を紡ぎ出す。 「あの歌、ひとりぼっちなんですもん。」 「ひとりぼっち?」 意外だったのだろうか、へぇ。と言う言葉ではなく、返ってきたのは疑問文。 「・・・・・・上手くは言えないですけど、何か、そんな感じがするんです。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「ねぇ、クザンさん。」 「なに、ナマエ。」 「・・・・・・格好良くなくても、生きて欲しい。そう思うのは駄目なんですか。」 そう独り言のように呟けば、後ろの背中が一瞬固まったように感じた。それでも私は言い足りなくって、口を開いた。 「会えなくなるから悲しくて、泣いてしまうことは駄目なことですか。」 言いたいことはもう全部言った。自分の気分が少し落ち着いたので顔を上げると、坂の向こうに、青い空と海が広がっていた。 海を唄えば よそ見をすると、どこかへ消えていってしまいそうなクザンさんの背中は無言しか返ってこない。自分の意見が正しいとは言わないけれど。人生が云々なんてその人本人が決めることで、自分の感情はまた別なはずだ。そう思いながら、海風にメロディーを小さく乗せる。こんな考えもあるんだと言うことが、彼と、海の彼方にいるその人に届けばいい。そうしていると、温かくなった背中が小さく震えた気がした。 back |