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戦うために生まれたの


「ねぇ、今日暇?」

歩いている廊下に響くその声。それ聞くたびに足元から鳴るコツコツと言う音に混じってぎすぎすという音が聞こえてくる気がする。

「・・・・・・クザン大将。」
「あ、ナマエちゃん。」

そう言って手をひらひらとこちらに振っているのが見えて、そして横には女の人。ぎすぎす、コツコツ、ずきずき、コツコツ。近づいてその光景を見るたびに大きく響くのは、誰にも聞こえない音。

「ヒナ、貴方と違って暇じゃないの。」
「あーららら。そりゃ残念。じゃぁ、また今度。」

そう言って去っていくのは・・・確か、ヒナ大佐と言っただろうか。美人さんだ。なんて事を後ろ姿を見ながら思う。

「・・・で、ナマエちゃんは何か用?」
「書類、終わらせずに出かけるのはあれほど止めてくださいと言ったじゃないですか。」
「あーごめん。悪かった。」
「・・・悪いだなんて、思っていないでしょう。」
「あらら、ばれた?」

いつものように、そんな事を話しながら大将の部屋へと一緒に帰っていく。

「・・・?・・・・・・ナマエちゃん?・・・ナマエ!」

ぼーっとしていたら、立ち止まっていたらしい。あまり聞かない大将の真剣な声を聞いて、我に返る。

「!!あ・・・ああ。すいません。」

視界にさっきの声と同じくらい真剣な顔の大将がいて、心臓が跳ねたけれど、あくまで冷静にそう口を動かした。

「どうしたの、ナマエちゃんらしくない。」

そう言われるのを聞いていると、自然と思い出されるのはさっき見た出来事。

「・・・っいえ、申し訳・・・ありませんでした。」

自然と下がる視線の上から、「あんまり無理しちゃ駄目だよ?」なんて言葉が降りかかる。副官として、大将を守る一部下として(と言っても、彼は強いらしいけれど)、こんな事では駄目だ。と自分に言い聞かせる。

ずきずきずきずき。

だけど思えば想うほど、この胸の痛みはどうする事も出来なくて。この感情の名前は知っている。だからこそ、この気持ちは口に出してはいけない。 私は彼の部下で、副官なのだから。 彼だってその位の分別はあるようで、私には絶対そう言う話はしてこない。不真面目そうに見えて馬鹿みたいに真面目な人なのだ。この人は。この人が本当に不真面目で酷い人だったら、こんな思いは抱かずにいられたのだろうか。なんて、馬鹿みたいな事を思いながら歩いていった。


戦うために生まれたのだから


部屋に帰って、まだ真っ白な自分の手を見つめる。目の前で作業している人を守るためなら、とっさに引き金を引いてしまうだろう。そんな考えたくない何時かを考えてしまう。

「ねぇ、ナマエちゃん。・・・ちょっと外出しても良い?」
「駄目です。書類全部終わらせてからにして下さい。」

全く目を離すとコレなのだから、とぶつくさ文句を言いながら、また新たに来た書類を追加していく。

「・・・ナマエちゃん・・・「駄目ですよ。コレが終わるまで、帰れませんから。」ええー・・・。」

さほど残念そうに聞こえない非難の声を聞きながら、私は大将が終わらせた書類に目を通す。 ・・・・・・こんなに出来る人なのに、どうして平素からやってくれないのだろう。とか思いながら、点検の欄に名前を書いていく。そうしていると、目の前のデスクに座っている大将が立ち上がる音が聞こえた。

「ちょっと!!「大丈夫、大丈夫。コーヒー淹れるだけだから。」

そう言った後、帰ってきた大将の手には2つのマグカップ。どうしてだろうかと首を軽く横に傾ければ、「ナマエちゃんも疲れただろ?」と気遣いの言葉。その言葉にぎしりと何かの音がしたけれど、何事も無かったかのように全てをコーヒーと一緒に流し込んだ。


貴方に向かってしまうこの気持ちは許されないでしょうけれど。

貴方を守るくらいは、許されるでしょうか。

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