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ぐらり。


参謀の職に祖母と同じように就きたいと思った。なれるとも思っていた、が。俺には発想というものが酷く乏しいから無理だ、と憧れていた祖母にばっさりと喰らった。

そりゃもうお先真っ暗さ。今までの目標なんてそれだけだったし。それからは足掻いて海軍に入って文官の腕を磨いて、トントンと昇級した。コネだと言われるのは馴れていたし、仕方ないだろう。それだけ祖母は偉大な人なのだ。

「・・・やり直し。」

そんな俺が、海軍に入ってこれは素晴らしい!という評価を受けたのが、「粗探し」だ。我ながら最低な特技というか、何と言うか。つまり、性格が元からあまりよろしくないのだ。人を蹴落としたり、姑息な手を、「基準の穴」をかい潜って行うことが、得意というか。あとは徹底的な批判厨なのだ。才能あるやつマジ羨ましい。

「これも、ここが駄目。」

駄目、駄目、全部駄目!
部下や他の海兵達はまたか、といった顔で溜息。だが俺の止まない否定を5回受けたら、大抵きちんとした書類に仕上がると評判があるらしく、今日もちょこちょこと人の出入りがある。
否定はされるとしっていても、誰であれ怖いものだ。それ故に、きちんとした人も何故か緊張しながら書類を提出しに来る。荒く書類を手からふんだくって、目を通す。

「・・・言うことがねぇな。」

悔しいが完璧だ。誰だこんな意地の悪い作戦作ったやつ。

「完璧だが、こんなの作ったやつの人間性を疑うよ。海軍らしく無い。」
「まったくだ。」
「で、ドレーク少将。」

そんな肉食獣のような顔をして、何を企んでおいでですか?

そう問えば、ニッコリとした人当たりの良さそうな顔を崩して、笑う。やはり、この人は侮れない。頭が良いのだ、あらゆる意味で。

「・・・勧誘に来た。」
「何の、と言うのは野暮ですね。」
「ああ、」

じっと頭の中でシュミレーションをしてみる。仮定としてドレークの策に乗ったとして。紙面にかかれた計画通りに行くだろうか。

「安心しろ。この紙に抜け道は少ない。」

俺も見たからそれに間違いないだろう。だが、勧誘となると話は別だ。俺は今の位置が落ち着いている。

「ここに居ても、お前は欲しい物は手に入らないぞ。」
「俺が欲しいのは地位なんだけど?」
「周りから認められない、お飾りの地位でもか?」

核心だ。ドレーク少将の言っている事に違いはない。俺は、ただ、認めて欲しいだけだ。俺を見てほしい。俺に穴があるとするなら、そこを的確についてきたドレークは正しい。今だってそのせいでぐらぐらと揺れているのだから。

「駄目、だ。」

否定的な正義を背中に背負っている俺が、簡単に首を振るわけにはいくまい。たとえ甘すぎる悪魔の誘惑だとしても。

「一度で良い返事が貰えるなんて思っていない。」
「俺が上層部に言うとは思わないの?」
「・・・信用している。」


ぐらり。


「五回は覚悟しているからな。」

めげないぞ、と笑う顔は好青年なのにきっと腹のうちは先ほどの策のように抜目ないのだろう。

「・・・考えておく。それにしてもお前は凄いな。あんな意地の悪い策を考えつくなんて。」
「ん? 気づかなかったか?」
「何がだ?」
「あれはナマエが書いた布陣を応用した策だぞ?」

ドレークの言葉に俺は顔を覆いたくなった。

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