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海軍アイドル


海軍に集まる人員は年々減少している。それに参謀(つる含め3名)とセンゴクはひとしきり頭を抱えていた。

海賊も最近は活気を増して来ているし、実戦に向かなくても参謀や書記官など文官にも人員は割かねばならない。もちろん海賊と闘うためには実力ある若手も必要なのだが。それにはやはり人を集めなければならないと続く。

「どうしたもんかね。」
「強制徴兵も考えとるが、」
あまりゴロツキばかり集めても意味は無いし。それなら広告でも配った方がマシのような気がしてくる。

「じゃあ、広告塔でも立てたら良いんじゃないですか?」

最近はアイドルだとかそういうののポスターとか良く見かけますし、と参謀の男が気だるげに発言した。

「金がかかるな。」
「なら、海軍から女子と男子選りすぐって広報のアタッチさんに撮りゃせりゃ良いでしょ。」

人件費もそれならかからないだろうし、と言われた台詞にその場に居た全員がゴーサインを出した。




「それで、このメンバーですか。」
「見世物になるなんて。ヒナ不快。」
「わ、私なんかでいいんでしょうか。」

さっさと終わらせたいと言うゼファー先生の生徒に、機嫌の悪いヒナ大佐、挙動不審な同期のたしぎ。あとは上層部の女性補佐官がちらほら。この輪に入るのかと思うと気が重い。

基本的にさっきの3人以外は添え物みたいな物だから、と言われて来たのに写真を撮る瞬間になって真ん中に追いやられる。

「ナマエの隣じゃなきゃ、ヒナ拒否。」
「えっ、私もナマエさんの隣が良いです!」
「たしぎ軍曹、それ私のコートです。皆で囲めば良いと思いますけど。」

三人が私を取り囲んで騒ぐ。残りの女性陣はさっとその間に後ろに並び始めてしまっている。

「私、後ろの方が良いんですけど、」
「駄目よ、ナマエが真ん中じゃないと。ヒナ不服!」
「なんで、」
「あっ、ナマエさん、改めてよろしくお願いします!」
「早くしないと訓練に遅れるので、そこでお願いします。」

自分の意見を言うと、ヒナ大佐からはばっさり否定、たしぎからは良くわからないタイミングで決定事項のように挨拶を頂き、他の人からはきつい目線で急かされて、もうアクアラグナに取り残された小船のような心境である。

「あの、」
『はーい、撮りますよぉ!』
「・・・。」

ええいままよ!
こうなったら、どうにでもなってしまえ。

そう思って、自分で思うとびきりの笑顔をして何枚か撮られていれば、広報のアタッチさんから終わりのサインを貰う。

『お疲れ様でした〜!』

それぞれに違う部署に帰っていく人のなか、同期のたしぎに「お疲れ様」なんて声をかけつつ、重い足取りで職場に戻る。さっきの構図を思い出してため息。

「海軍駄目だ。」

もう片方はそれなりに男性陣が頑張るそうなので、もうそちらに期待するしかない。とりあえず上司のモモンガ中将も撮るらしく気を滅入らせていたので後でお茶でも持って行ってあげよう。



海軍アイドル


「スモーカーさん聞いてくださいよ!私、ナマエさんの隣で写真撮っちゃいました!」
「・・・あのド天然野郎か。」

前になんか(こっそり見守るファンクラブ)とか出来てた奴だろう、とたしぎに言えば、首を縦に思い切り振って舌を噛んだようで涙目になっていた。

「お前と言い、ナマエといい、上司の面倒も考えてみろ。」
「失礼ですよ、スモーカーさん。ナマエさんは私みたいにドジじゃありませんし。」
「自覚あったのか、たしぎ。・・・あと俺が言いたいのはそうじゃねぇが。」
「・・・?」
「・・・ったく、モモンガ中将のところも厄介な部下持ったもんだ。」

俺はたしぎについては別になんの感情もない部下のひとりだが、モモンガ中将についてはそこに厄介な感情もあるらしいという噂だから俺以上に気を揉むことだろう。悪い虫、なんてそこらじゅうに沸いて出るレベルだ。それこそ海軍の物置以上だろう。

「・・・ハァ、」
「もう、何なんですか!」
「自分の身くらい自分で守れよ。」
「・・・そこまで弱くないです!」

海軍に入隊する女のあまりいない理由はそれである。オオカミの群れに羊を放りこむようなもんだ。よっぽどの鈍感か、男勝りか、真の実力者、もしくは血縁のコネ。入隊するまでにそのくらいしか残らない。俺は部下が女だろうが男だろうが気にはしねぇが、最低限の環境は整えてやってるつもりだ。・・・それ以上は俺は面倒みてやる義理はねぇからな。

「あっ、スモーカーさんもこれから撮影なんですね、頑張ってください!」
「・・・俺は行かねぇ。」
「ほらほら、行かないと怒られちゃいますよ!」
「チッ、」

仕方なく重い腰を上げて、2本葉巻を口に咥えてから部屋を出る。あー・・・青雉大将じゃねぇが、サボりてぇな。ゆらりと煙を燻らせながらゆっくりと撮影室に行く途中の廊下を曲がったところで、ピンクのモヒカン頭を見つけてお互い苦笑を浮かべて挨拶をする。

「・・・そっちも大変そうだな。スモーカー。」
「あまり煩くなるようなら、俺は部屋から追い出しますがね、」
「それはたしぎ軍曹が可哀想だな。」
「・・・放っておいても大丈夫に育ててるんで。」

暗にモモンガの所が過保護だと言っているのだが、ひょうひょうと返すこの男には通用しているのかいないのか。とりあえずこちらを探るような目線が気になったので、疑惑だけは拭い去っておきたい。

「ナマエには、興味も全くないので。お構いなく。」
「・・・どうだか。男は信用していないのでね。」

にっこり笑った顔が若干先程より自然そうだったのに息を抜いて、撮影室からそのまま足を遠ざける。理由なんて後付で十分だ。とりあえずあの中将もその部下も全部全部面倒くさい。

「時に、スモーカー大佐。君はたしか今から撮影だった気がしたのだが。」
「・・・・・・チッ。」
『おーい、何やってるの。みんな待ってるんだからね!』

空きっぱなしだった部屋の内側からの声に、観念して撮った写真だが。面子も面子だったこともあるが、まぁ反響はそれなりだった。とりあえずどういう基準でメンバーを選んだのか詳しい資料を俺にだれか寄越せと言いたくなるくらいには問題な写真だった。


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