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紅蓮の空


とある火山口。昔はエンドポイントと呼ばれていた場所の一つだったが、変動する気候や活断層により、今は前ほどの火力は無い。その辺りに私の種族は住んでいた。

「この山はもう駄目だ。」

近くの火山活動が活発な山に移り済む予定もあったのだが、その山は突如として氷に覆われてしまった。火の鳥、と呼ばれる我々成鳥は何処でも暮らせない事は無いのだが、幼鳥、繁殖を考えるとやはり住み慣れた火山があった方が良い。よく怪我をする雛には回復するための温度の高い炎の水がないと不安だし、卵は火山の中でなければ孵化しないのだ。

「まだここでも、大丈夫。」

そうリーダーに言えば、リーダーは黙って横に首を振った。

「駄目だ、もう3ヶ月も待った。卵だってどれも孵らない。」
「そんな、」

今温めている卵だってあるのに。

「諦めろ。また新しい山を見つけたら、そこで次の卵を温めればいい。」
「近くの山だって今は冷えてしまっているし、少し遠くの山は人が頻繁に出入りしている。何処に行くんだ。」
「遠い所だ。それ程その卵が大切なら、お前はここに残れば良い。」

付き合ってはいられない、とリーダーは羽を広げ、群れの奴らに話に言っているようだ。次の日、子を持たぬ成鳥が羽ばたいていき、それが2回、3回と続いた。何回目かに飛べぬ雛達も安全な火山へ移動が終わり、あとは卵だけ、という時になってぱたりと仲間の来訪が途絶えた。理由はわかっている。遠い土地まで行くまでに卵がどうしても冷えてしまうからだろう。

「私には、切り捨てるなど出来ぬ。」

火山の暖かい地面に乗せられた残された卵をひっくり返しつつ、ため息を吐く。自身の卵を温めた事は無いが、いかにそれが重要なことかは解る。それなのにここに卵が残っているのは、未来を見据えてのことだろう。

「もし、卵が孵ったら。」

私も彼らのように何処かに移り住んだ方が良いだろうか。ただこの場を動けないだけで、この火山がもう駄目なのは誰よりも解ってはいるのだから。


ばさりと羽を広げて、久しぶりに空に羽ばたく。近くの火山くらいまでなら卵を冷やさずに飛べるだろうか。考えつつ辺りを見回すように旋回した所で島に船がつけられているのを見つけた。髑髏マーク、海賊船だ。人間に卵を盗まれては堪らないし、人間の中でも海賊というのは一等危険だと聞く。目を凝らしてみれば、船の上に居る人影。これはまずいことになったと慌てて卵の近くまで引き返す。もうこの島には私しかいないのだから、あの卵たちを守れるのも私だけだ。羽ばたく速度を速めて火山口に急いだ。


紅蓮の空

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