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約束しましょう


「こらー!待てー!」
「待てと言われて待つ奴があるかよ!」

ぎゃあぎゃあと騒いでいるこの風景も、ウォーターセブンではよく見る光景。キラキラ日の光を受けて光る水路の上を縄を使って器用に走り抜ける男と、それを追いかける男。

「パウリー!!」
「・・・今月分と利息は昨日払っただろーが!」

給料日にはきちんと職場から直接集金をしている癖に毎回毎回懲りずに後ろを走って追いかけて居るのには訳がある。なにせ、このパウリーと呼ばれている男。こいつに全ての原因がある。暇があればギャンブルに酒に煙草。唯一女に免疫がないという事を覗けば全ての駄目男の象徴といっても過言ではないほどの面倒な男である。

「今月分はな!・・・ってお前いま幾ら借金してるかわかってんのか!」
「・・・あー・・・?」
「俺が容赦なく取り立てすると、お前は今月から半年ほど無一文だぞ!」

わかってんのか、これが俺の優しさって奴だ。街を走るヤガラ船に乗って引き離そうとするパウリーに投げかければ、まじか・・・、と凄い神妙な顔で言われた。

「だっ、だからって俺、今月カツカツなんだって。」
「・・・カツカツとか言いながら昨日はヤガラレース会場に居たようだが。」
「お前コエーよ。」

だん、と大ジャンプを決めて同じようにヤガラ船に乗り込み、逃げられないように腕を掴む。船大工の力量があればこのくらいのちゃちな拘束はすぐ解けるのだが、それをしないのはちょっとだけ、こいつが俺より立場が弱いと言うことだ。

「好きで張ってるワケじゃねーよ。こっちもお仕事なの、解る?」
「俺だって好きで逃げてるワケじゃねーよ!お前しつこい!」
「早く返した方が良いって、俺は善意で取り立てやってんだぞ。感謝される云われはあっても怒鳴られるとか・・・ねぇわ・・・。」

大体、街の花形がギャンブル狂いってどうよ。溜息を吐けばちょっとだけ反省の色をした顔ですまん、と謝るように頭を下げるパウリーに再度溜息。

「反省してんなら・・・なんでまた借金増やすような事するかなぁ・・・」

船大工として結構な給料を貰っていてもパウリーの場合は相殺所か酷いマイナスで借金ばかり。利息だけでも馬鹿にならない額だ、それを返さずに逃げ回っているのだからこいつは筋金入りの馬鹿だろう。ギャンブルを辞めれば多少はもうちょっと生活に潤いも出るだろうに。

「・・・良いんだよ。俺はこっちの方が性にあってんの。」
「借金で首の回らない奴が・・・トチ狂ったか。」
「だってよー・・・お前、借金無くなったら。もう追いかけてこねーだろ。」

だから、こっちのが俺は良い。なんて告白にしか聞こえない。というか若干顔が赤いのは・・・その・・・そういう意味で良いのだろうか。

「・・・おい。パウリー。」
「ん、なんだよ。馬鹿にしてんのか。」
「・・・お前は本当に馬鹿だな。」
「で、どうなんだよ?」

俺がどれだけ仕事に容赦ないか知ってる癖に、今更俺に其れを言わせるのか。それに俺はもう何度も「好きだから追いかけてるんだ」と言ってきたつもりだったが。ヤガラが酷く迷惑そうに額にしわを寄せながらこちらを見ている。後でなんか餌買ってやるから、もうちょっと辛抱してくれ。

「自分の借金も覚えてねぇくらい、俺の事が好きなパウリー君に。賢い俺が忠告。」

さらさらとノートに数式を書き出す。
【(お前の一ヶ月分の給料×0.6×●ヶ月)−借金+(●ヶ月×借金×0.5%)=0ベリー】
書き出した計算式は実はもっと複雑なモノだったのだが、馬鹿な男にはこのくらいの計算で良いだろう。

「・・・ちなみに答えはさっき言った6ヶ月以上だ。」
「で、其れがなんなんだよ。」
「おい、ちゃんと計算したか。」
「・・・約9ヶ月だろ、そのくらい解る。」
「正解したパウリーにご褒美。全部返し終わったら俺からパウリーに指輪買ってあげます。」

やっと意味が解ったという顔をして、ぱくぱくと口を開けて驚く男に笑いかけながら一言。展開が早い? 追いかけて追いかけられて5年以上の俺達に今更そんな事言う奴らなんてこの街にはいないだろうけれども。むしろ周りがきっとやっと落ち着いたかと拍手でもくれるに違いない。

「こんな生活面で頼りない奴と一緒に居られる奴って、きっと俺だけだろうし。」

引き取ってやると言えば、顔を真っ赤にしながらも喜んで抱きついてくる大型犬のような男には、目の前に餌をぶら下げてやるのが丁度良いだろう。

「引き取ってやるから、さっさと色々精算してこい。」
「・・・っ、そしたら、」
「その後からは、しっかりした俺がお前ごと管理してやるから。」
「バーカ!」


しっかり者と馬鹿野郎の恋模様

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