カランと落ちた氷の中に 「あっつ・・・。」 扇風機の風を受けながら、アイスを一口、また一口と食べる。半袖の所々がくっきりと綺麗に色が変わり、ジーパンも蒸れて熱い。もう何処にも行く予定はないし、寝間着代わりの甚平に着替えてやろうか、と思ってしまう。ちらりと時計を見る。・・・午後1時過ぎだ。夕方ならまだしも、こんな早くに寝間着に着替えるのはどうだろう。暑さでゆっくりとしか動いていかない頭で考えながら、アイスを頬張る。 「あっつ・・・・・・ん?」 さっきとおなじ言葉を呟いて寝転がってみると、部屋の隅に買い物袋が目に入った。 「暑くない・・・気がする。いや・・・でも、暑い。」 最近買い物に行ったときに買ったシンプルなワンピースに着替えて、そう呟いた。『夏は暑いからスカートの方がいいわよ。』と母親に言われて一着買ったのを、何となく思い出す。今思えばズボンしか穿かない自分にスカートを買わせるための口実だったのかもしれないが。そう思っていると、ぴんぽーんとインターホンが鳴る音がした。 「よーっす、名前ー。」 「なんだ、滝川さんか。」 誰かと思ったら、まさかの滝川さんで少し拍子抜けしてしまう。 「何、俺じゃ不満って言うの?」 玄関で泣き真似を始めてしまう滝川さんに少し呆れながらも、ふと、首を傾げてしまう。 「あれ・・・今日何か予定ありましたっけ?」 「いんや、無い。」 約束の時間になっても来ないから家まで来た・・・と言うことではないらしい。その事にホッとしながらも、また首を傾げる。 「じゃぁ何でまた。」 「うん?・・・あぁ、近くに寄ったから。外暑いだろ?名前の所で涼んでから「私の家は避暑地じゃないですよ。」 どこぞの事務所を喫茶店のように使っているらしいし、目の前のこの人には遠慮という物が無いのだろうか。 「っと・・・・・何、珍しいじゃん。」 デート?と冗談めかして聞いてくる滝川さんに、意味が分からないと眉間に皺を寄せて否定した後。気が付いた。 「ああ・・・スカートですか。悪いですねーいつもズボンばっかでー。それでは。」 若干自分の格好に恥ずかしくなった私は、そう軽口を叩いて閉め出そうとした・・・が。 「悪くないって。可愛い格好だから、おじさん、彼氏でも出来たのかと思ったよー。」 そう言った後、お邪魔しマースと勝手に入ってきた滝川さんに軽く溜息を付きながら、仕方なく中に入れることにした。 「あれ、誰もいねぇの?おばさんは?」 「そうですね、今私一人です。母さんなら仕事ですけど?」 「名前・・・おまえさんはなぁ、もう少し危機感という物を「拒否したのに勝手に入っていたのは誰ですか。」 さぁーて、誰だろうねー。と逃げた滝川さんに冷たいお茶を出すため、一人、台所へと足を向ける。グラスの中に、仕方がないからと色々理由を付けて許してしまう自分を見つけ、苦笑いをしながらお茶を注いだ。 カランと落ちた氷の中に 「何、クーラーつけてねぇの!?」 「今は節電の時代ですよ。扇風機さえあれば私は生きていけます。」 「俺は生きていけないんですけど・・・。」 いいよなぁ、名前はスカート穿けて。涼しそうだなぁ。と独り言のように呟く。 「うーん・・・。スカート、高校生以来なんで正直違和感バリバリですよ。」 そんなに言うなら、滝川さんも穿けばいいじゃないですか、スカート。と言えば、想像したのか、勢いよく首を横に振る。 「風が来るのは良いですけど、肌が直に密着して何か地味に暑いし、太股が直に合わさる感じとか色々・・・。」 すねぐらいまであるスカートを軽くつまんで離したり、ゆらしたりながらスカートの文句を言っていると、何故か手を掴まれる。 「・・・・・・なんですか。暑いです。」 驚いたのは認めるが、少しどきっとしてしまったなんて、口が裂けても言えない。 (名前、おじさんとスカート以外の話をしようか。) (・・・何ですか、スカートを滝川さんに無理矢理穿かせませんよ。と言うか、おじさんって自分で言ってて悲しくないですか?) (あのなぁ、そう言う問題じゃなくってな。) (じゃぁ、何だって言うんですか?) (わかれよ大学生。) (大学生でもわからないものはわかりませんー。) (・・・・・・あのな、名前。) (はい。) (あー・・・名前。お茶、お代わりお願いできる?) (りょーかいです。その前に、手、離して貰わないと。) (あー・・・うん、わりぃ。) 離した手を名残惜しく見ながら、結局、彼は何が言いたかったのだろうかと頭の片隅で考えていた。 back |