イエスタディプリーズ? 騙し騙されての世界だ、身を守る手段は多い方がいい。戦いに向いていた故にその戦力を買われてドンキホーテ傘下の海賊になった男もいるが、俺は戦闘に至っては一般人と大差無い程度だから、その分欲しいものを手に入れるために話術を磨いた。それがうまくいって、今ではそこそこ悪くない生活が出来ているのだから人生って解らないもんだ。 鼻歌混じりにフロアで有意義に来た手紙の整理をしていれば、後ろから声。 「今日は、良い酒だ。」 「ヴェルゴ。俺が見るに、そりゃ水だ。」 手を見ろ、と指で示してやればヴェルゴは首を傾げる。心底解らないといった顔が面白くて堪らない。 「そうか、俺は酒なんて持って来ていなかった。」 「そうだな、飲むなら今からワインぐらいなら出してやるぞ。」 「ん、頂こう。」 ワインセラーから早足でワインを2本とってこれば、案の定、机の上の俺の手紙を読みふける男。綺麗にしまってあった手紙はヴェルゴの掌の中でぐちゃぐちゃになっていた。 「ナマエ、これはどういう事だ。」 「・・・好きな人からのラブレター?」 そんな女がいたのか、なんて心底驚いたヴェルゴを見るのも何回目だろう。きっと両手では数えられない数に違いない。 「誰だ?」 「ヴェルゴ。」 ニッコリ笑えばヴェルゴは言葉を飲み込んで、そうだったかと天井の何処かを見ながら呟いた。 「そうだ、それを書いたのは俺だった、か。」 しばらく記憶を漁ったヴェルゴが、首を傾げながら聞く。 「書いたのは俺かも知れないが、俺達は付き合っていたのか?」 「ああ、そうに決まってるだろ。何を言ってるんだ。」 「そうか、お前が言うなら確かだな。」 ワインのコルクを抜いて、キャビネから出したグラスに注ぐ。まだどこか納得がいっていないのだろうヴェルゴは相変わらず首を傾げていた。 「・・・もしかして、それは嘘か?」 「お仕事上、仕方ないけど、少しくらい信用しろ。」 どちらなんだ、と食い下がる男に更に疑問で返してもよかったのだが、欲しいものの前では妥協なんてする気持ちもないので、笑って言う。 「少なくとも、俺はヴェルゴのことは愛してるよ。」 もう一度言おうか、お前はすぐに忘れてしまうだろうから、なんて皮肉混じりに言えば、「そう、だった。俺達は恋人同士だった。」と言い直すヴェルゴ。すまない、なんて謝る彼の頭を「気にしてない」と言いながら撫でる。頭を撫でる掌にホッとしたのかヴェルゴはサングラスの中の目を閉じたようだ。 「愛してるよ、ヴェルゴ。」 「俺も愛してる、ナマエ。」 イエスタディ、プリーズ? 可哀相に。 この前、俺を振ったことすら忘れているらしい愚かで可愛い男に口づけながら、さてどうしてやろうかと考えた。 back |