がぶり。 噛み付きたい。あわよくばその首筋にかみついて柔らかい肉を引き千切ってしまいたい。でもそんなことは出来ないと踏み止まっているのは、あの男は無類の女好きで、俺がそんな事をしようものなら烈火の如く怒り、許してはくれないだろうと予想がつくからだ。まぁ、俺のほうが実力的にみて強いので襲ってしまえばいいのだが、「反抗されてついうっかり殺してしまいました」なんて事になっては困る。 グダグダと考えた所で、溜め込むしかないフラストレーションを抱えながら仕事場にむかえば、へらへらとした顔で笑うジャブラが先に部屋で待ち構えていた。 「よぅ、ナマエ。」 「うるさい、何か用でもあるのか。」 白い喉でくつくつと笑いながら「俺にも春が〜」なんて馬鹿げた事を言い出す男に、今なら噛み付いても俺の報われない思いを知っている他の奴らなら許してくれそうだな・・・なんて思いつつ歯を食いしばる。ぎちりと奥歯が嫌な音を立てた。 「そうか、くだらん。」 どうせ俺が色目を使えば簡単に落ちるような女だろう。馬鹿め。フクロウにでも話して妨害に協力願うか。 「彼女の居ないナマエには、刺激が強かったか?」 「女なんて必要ない。」 ひ弱い牝などはきゃんきゃんと煩く、俺が苛ついて抱き潰してしまうか、息の根を止めてしまうかのどちらかだ。どちらにしても俺の欲しいものが手に入るなら不要なものである。 「煩い、」 「お前のそういう所は、あの化け猫と同じだよな。」 「兄貴とは違う。」 兄弟だからといって、自分の性格はルッチ程には破綻していない。自分を棚に上げて考えてもあそこまで感情が欠落した人間じゃ・・・ないと思いたい。 「ふぅん、そんなもんか。」 興味なさそうに言いながら、「好きな奴くらいいるだろう、」なんて呑気に言う男に洗いざらい全てぶちまけてしまいたいが、俺に出来るはずがない。回答せずに黙ったままでいれば、「なぁなぁ、」と回答をせびるジャブラに耐え切れなくなって話題を憎たらしいが女の話題に変えてやる。不本意だが仕方ない。 「で、今度は誰。」 「給仕のアリエスちゃん!」 給仕のアリエス、ね。顔すら覚えて居ないが、あとでチェックだけいれておこう。溜息を吐けばジャブラが笑いながら羨ましいのか、と聞いてくる。ああ、羨ましいに決まっている。女であるというだけで、こんなに奴に好かれるのなら俺も女に生まれたかった。 「もしかして失恋中か?」 「ああ、只今記録更新中だ。悪いか。」 ギャハハなんてジャブラは心底馬鹿にしたような顔で俺を指さして笑った。いつもフラれたジャブラに向かって俺が笑えば指銃がとんでくるというのに理不尽極まりない。 「・・・まぁ、気持ちは解るぜ。かわいい弟分の恋だ、俺も出来るだけ協力してやる。」 「言質とるぞ。」 「馬鹿野郎、もう少し俺を信用しろ。」 「・・・本当か?」 「おう、俺に出来るなら何でもこい!」 「へぇ、・・・じゃあ遠慮なく。」 がぶり。 「なっ、てめぇなにしやがる!!」 「・・・無性に歯が疼いたんだ。」 back |