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下弦の月


俺にはもう一人、兄弟がいるかも知れない。20になった時に海軍に勤めていた父が言った。己の母が父と一緒になる前の子供であることは、自分もかなり前から知っていた。父譲りでも、写真と朧げな記憶に残る母譲りでもない黒い髪。噂話などで知ってはいたから、こう父親に面と向かって話されてもやっぱりかと思うしかない。弟も父親が違うのかと尋ねれば、弟はきちんと母と父の子供だそうで、昔からすこしだけ壁を感じていたのはそのせいだったのかと納得した。父は母が死んでからも自分の息子でない子供を育てていたとすれば同情こそすれ、責めることなどできやしなかった。

「すまなかった、」

父からこの機会に家を追いだされるのか、ともおもったのだが、父の口から出てきたのは後悔と懺悔だった。

「ナマエ、落ちついて聞いてほしい。」


泣きながら父親が語ったのは、母は身勝手な自害などではなく、俺を殺そうとした父が誤って刺してしまったのだということだ。「母を奪ってしまって申し訳ない」「殺そうとしてすまなかった」と泣き崩れる父が何度もお前に罪は無い、なんて言うから、よっぽど父が俺の実父が憎いのだろうということは推測出来ていた。

「もう、いいよ。父さんも俺をここまで育ててくれたし。もういいよ。」


何しろ、俺をここまで育ててくれた恩がある。正義感のつよい父のことだ。随分と苦しんだに違いない。謝罪を繰り返す肩を抱き込んで、平気だと告げてやれば、安堵した様な顔をする。


「俺の父親って、本当は誰なの?」

そう聞けば父親は苦々しそうに顔を歪めて、世を騒がせた大海賊の名を告げた。まさか、そんな馬鹿な事があるわけはない、なんて父の顔をみたら言えなかった。海軍である父がどうしても許せない男、言われてみれば全ての元凶のような男だ。

「お前は好きなように生きなさい。海賊になろうが、海軍になろうが、お前らしくあればそれで良い。」

母もそう思っていただろう、と言った父に対して「なぁ、今でも俺が憎い?」なんて言葉を飲み込んで、数日後に俺は逃げるように沖に出た。親を嫌いになったわけじゃないし、養父のように実父が憎いわけでもない。このまま隣の島まで行って暮らしてもいいかもしれないと安寧な生活も考えてみたのだが、第一に、居るかも解らない弟に会ってみたかった。3年間探して、無理なら出かけ先の島でそのまま暮らせばいい。

「とりあえず、まぁ、居るかどうかだけでも調べるか。」

手っ取り早いのは赤髪のシャンクスに会う事だろう。実父の船の奴らで、居場所がわかるやつはそう多くないし、ちょうど頃合いもよくシャンクスは北の海に酒を買い付けに来ているらしい。そうなれば話が早い。


下弦の月


「まぁ、なんとかなるだろ」


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