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それが愛だと気付いた


影の薄い男だ、と言われた事がある。そりぁもう数え切れないほどの数だ。生れつき、人・動物・植物に認識されにくい俺はわざと、何かしらの音を立てて動かなければ見つけても貰えない。そんな俺を、師範でも見つけるのが難しいとする俺を、見つけてくれるのはいつだって同期のシュウだけだった。

「鈴でもつければ良いんじゃないかな?」なんて、わざとバタバタと動く故に煩い俺に嫌な顔をせず、色々アドバイスしてくれたり、食材の調達を一緒に手伝ってくれたりととても面倒見の良い男だ。料理だってそつなくこなすし、見た目だってモテそうな容姿をしている。現に女性の修業者から声をかけられているのをよく見かけるから、その点においては間違いないだろう。

「シュウ、」
「はい、何ですかナマエさん。」
「なんか呼んでみたかっただけです。」
「そうでしたか、今日はどうしたんですか?」
「・・・珍師範がとうとう俺の名前を忘れたみたいで。」

存在だけでなく名前まで忘れられたら、俺はどうしたら良いんでしょうか。まぁ珍師範にとって名前を間違えるのはいつもの事だから気にならないのだが、忘れられるとなると話は別だ。シュウに言っても無駄だとはわかっては居る。シュウじゃない奴にはこんなくだらない話もしないし、相槌も求めてないのだが、シュウに話せばだいたいが俺の欲しい言葉をくれるから、毎回くだらない事を思っては話にいってしまう。

「あぁ、仕方ないですよ。師範はそういう御人ですから。」

最近は一文字も合わなくなるなんてザラですし。あの人、元から覚える気ないでしょうから気にしない方が楽ですよ、なんて励ましてくれたりする。にっこりと笑いながら言い切ったシュウに胸を軽くしながら、俺も笑う。


「それに珍師範も名前を忘れたからといって、貴方自体を忘れているわけではないと思いますよ。」
「だと、いいけど。」
「まぁ忘れていたとしても、私はナマエさんのこと忘れませんから、安心してください。」
「シュウが俺のこと忘れるなんて考えた事ないよ。だってシュウ、いつも俺の事探してくれるし、見つけてくれるからさ。」

こんなに迷惑かけてる男なのだからうっとおしくなることはあったとしても、彼の記憶から消えるなんて事はないだろうし、考えたくもない。

「いつも、ありがとな。」
「私が好きでやってる事ですから。」
「それでも、だよ。」

俺、面倒くさい体質だから正直手間ばかりかけてるだろ。だからだ、と言えばシュウは笑って俺の発言を一蹴した。

「私が好きで面倒事をわざわざやるとお思いで?」

何を面白い事を、といった顔でシュウが俺に笑いながら言い切る。

「貴方を好きだからに決まってるじゃないですか。」



それが愛だと気付いた


「えっ、シュウ?!」
「そろそろトリコさん達の昼食の時間ですね。ナマエさん、手伝ってください。」
「わかった・・・って、ちょっとシュウ待って!!」


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