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つまり心配だってコト


夜中にふと目が覚めた。野生の勘、とでもいうのだろうか。昔から鋭かったそれを今は重宝しているのだから人生というのはよく分からない。隣の部屋からごそり、と動く気配を感じてベッドから重い体を引き離す。

「・・・またか、」

隣の部屋に移動してみてみれば、嫌にじっとりと汗をかいて呻く最愛の男。週に何度か、最近は以前より頻繁に夜中に起きるようになっているようだ。つまりそれは病状が悪化しているという危機を察してのことだ。

「・・・アイ、」

名前を呼んで背中を撫でてやれば、ぜぇぜぇと荒く上下する胸。

「あつい・・・」

熱も幾分かあるようだったが、如何せん自分を大事にすることをしない男は、どうせおれには効果がないから薬は他の奴にあげてやってくれ、という始末。それに怒っていたのも初めのうちだけだ。もう最近になってからはこちらも無駄だと気付いたので無理矢理飲ませている。だがその薬も目に見えての回復が見られないので、愛丸の言うとおり効果があるか怪しいのだが。

「いつもすまないな・・・」

とりあえず落ち着いてきた所で白湯に少し果物の果汁を加えた物を手渡す。弱々しく笑う彼には反省の色が見て取れるのだが、優しい彼のことだ。また明るくなってから、他の患者が来たら同じ笑顔で助けてしまうのだろう。結果的にそれが命を縮めることになると知っているのに関わらず、だ。

「そう思うんだったら、お前は自分を大事にしろ。」
「・・・ごめんな、でも」
「反論は認めない。」

ぴしゃりと相手の声を遮れば、愛丸が苦い顔をして笑っていた。このやりとりも何度目だろう、と思いつつも止めることがないのは、愛丸もどこかでそれを止めなければならないだろうと感じているからだろうか。

「アイ、俺には耐えられないよ。」
「キス以上の事をしてやれないのは・・・すまない。」
「そうじゃない、馬鹿」

確かに前回身体を重ねたのは年単位でかなり前のことだが、それに不満があるわけではない。むしろ病人相手にそれを要求するほど愚かではない。

「じゃあ俺の病気のことか、毎回迷惑・・・」
「違う、迷惑とかじゃない。ただ・・・お前が・・・」

他の奴らばかり助けようとして、お前が傷ついていくのを見るのが辛い。いっそのことグルメ騎士団なんてやめてどこか遠くで安静に暮らした方が、と考えてから苦笑する。どうあがいたってこの人が首を縦に振るはずがないから。

「なぁ、ナマエ、」
「なんですか。」
「俺も、お前にそんな顔させてると思うと・・・辛いんだ。」

笑えよ、とニカリと口元を見せる愛丸に、泣きそうになる。俺がどんなつもりで見ているかなんて、幾分かも気にしていない様子で普段行動する癖に。何故こういうときだけ異様にこちらを分かっているフリをするのか。

「俺が、どんな気持ちなのか知らない癖に・・・!」
「・・・愛してる、」
「誤魔化さないでください。」
「誤魔化してるつもりはないんだけどなァ、」

ごほごほと咳き込みながら告げる愛丸に、正直こちらは気が気でない。

「なァ、「話は良いからさっさと休んでください。」・・・話くらい聞いてくれねェ?」

飲み終わった湯飲みを愛丸の手から攫って布団を上から掛け直す。それに複雑な顔をしながらも大人しく従ってくれる愛丸に微笑む。

「まったく、俺の恋人殿は心配症だなァ、オイ。」
「・・・心配ばかりかけるアイもどうかと思いますけどね。」
「反論の余地が無いな、ごめんってば。」

ぐいっとベッドの中に引き込もうとする声は先程の具合の悪い物とは違い、酷く無邪気だ。それにまた頭を抱えるのだが、当の本人は多分意味すら気付いていないのだろう。引き込まれたベッドでは俺の胸板辺りにぐりぐりと上機嫌で頭を擦りつけてくる恋人。

「俺、寒気がするんだけど、暖めてくれる?」
「言うアイは元からそのつもりだっただろうが。」
「・・・ごめんな。」

癖のようにそう言う男をそのまま文字通り抱きしめる。苦しいといわんばかりに背中を叩く手は愛嬌というものだ。はふ、となんとか腕から抜け出して顔をあげた愛丸の漆黒の瞳と目が合う。

「なにす・・・」
「俺はごめん、っていわれるより有り難うって言われるほうが好きだな。」

そういって額にキスを降らせてやれば、腕の中からは不満の声が漏れた。

「心配ばっかりかけてるお前に反論の余地など無い。」
「ちぇ、覚えてろよ。」
「ああ、覚えてる。 だから早く・・・」

良くなれよ、と続く言葉の前に愛丸がそうだなと肯定したので、その答えに満足した俺は微笑んで、苦しくないように加減しながら抱きしめる力を強めた。


つまり、心配だってコト

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