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眩しくて目を閉じた


へらへら、へらへら。何にも面白くはないけれど、取りあえず笑っておけば今日が楽しくなる気がして、ずっと笑みを張り付かせている。笑顔を向けられて悪い気分になる奴は居ないだろう?少なくとも自分はそう思っている。


「・・・なんでアンタはそう笑ってられるの?」


一体なにが楽しいやらと言う顔で、呆れと後悔混じりに聞く声は酷く頼りない。人の命を奪うときすらずっとその姿勢を崩さない自分とは大違いである。如何せん彼は優し過ぎるのだ。いつかそれが悪い方向に変わる気がしてこちらは気が気でないという事に、いつになったら彼は気づくことやら。


「・・・邪魔な虫を潰す時にも、君は心を痛めるのかい?」


そう彼に問えば、更に泣きそうな顔をして彼は俯いた。そっか、なんて心にも無く相槌なんか打って。そのくせ納得はして無いんでしょう。顔にそう書いてあるからわかるんだけれど、言及はしない。流石に嫌われたくはないからね。


「ねぇ、クザン。」

なに、と顔を上げた君の顔は表情が抜け落ちてしまったかのような顔をしていた。


「触れて欲しくない癖に、近づくのは賢い選択じゃないねェ。」
「どうして?」
「答なんかとっくに出てる癖に、わざわざ傷つきたいワケじゃあないんだろう?」


やめておきなよ、とはクザンへの警告だけではない。もちろん、踏み込んではいけないといいながら、今まだこうやって話している自分への抑制でもある。


「踏み込んで良いなら、好きにするけどォ。」
「ナマエさんは、ずるい。」
「うん、そうだろうねェ。」

ずるいのはお互い様だ。お互い良い歳した大人だからそれなりに狡くもなる。それでも、


「君は君のままだから、だから俺にはそれが眩しくて仕方ない。」


ピカピカの実を食べて以来、自分以上に眩しいものなんてないと思っていたのだが、そんな自分でもクザンを見るときだけは知らず知らずに目を細めている。


「なに、言ってるんですか。」
「だって君は、綺麗すぎるからさァ。」


海軍なんて長年やっていて、心から真っ白だなんて言えないけど。それでも上に言われた通りにこなすだけの自分とは違って、彼はいつだって最善を己や道徳により悩んで迷って選択してきた。自分の歩んだ道が平坦だとは言わないが、彼のような真っ当な人間がここまで乗り越えてくるにはきっと辛いことが多かったに違いない。


「まぁ、嫌いじゃないよォ。」
「っ、」
「ただ、もうちっと上手く生きられねェかなァ・・・とは思うけど、ねェ」


でもそれが彼だ。彼らしいキラキラした眩しさは、きっと彼そのものなのだろう。自分にはないものだ。


「ナマエさん、」
「ん、なァに?」
「その、ありがとうございます」


こちらに向かって一生懸命に、顔なんて真っ赤にしながらも丁寧に挨拶してくれる。あまりにもそれが可愛いものだから思わず頭を撫でたら、さらに赤みを帯びる顔。おやおや・・・とは思ったけれども、まぁそこまで指摘してやるのも可哀相だし。


「もぅ仕事戻りなァ、俺がサカズキに怒られちまうからさァ。」


ちょっと晴れた顔をしたクザンを廊下まで見送り、だんだん小さくなる後ろ姿を見ながらサングラスの中の瞳をまた細めた。


あァ、眩しい

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