ショート | ナノ
新人と大工さん


「ありがとうございましたーまたお越し下さいませー!」

もう出口の近くまで行ってしまっているおじさんにそう一言声をかけ。そして見送った後私はレジを出て、商品を一番手前にまで出す作業をやり始める。

「あー・・・。」

レジに誰も足を向けていないのを確認しながら、私は小さく溜息をついた。

「あーつらい・・・。」

何が辛いって、きっと私がバイトを初めてから日が浅いと言うことも要因の1つなのだと思う。 慣れれば今よりはずっとましになるはずだ。・・・きっと!

「86番がマルボロの・・・。」

何だっただろうか。さっき言われたのにも関わらず、私は頭を捻ることになってしまう。ただ、あれは無理だ。うん、きっとそう。そう心の中で呟きながら、私はレジの近くに2カ所ある煙草置き場に目を向ける。

「・・・あーもう、分からない。」

煙草はたばこ屋で売ってください。お願いします。種類は150以上。とあるゲームのモンスターだったら覚えれるけど、コレは無理。未だに何が何処にあるのかいまいち解っていない。しかも名前が結構似ていると来た。まぁ、煙草以外の商品もそうなんだけど、正直つら・・・すいません。

「あと・・・番号じゃなくて、略称で頼むからさぁ・・・。」

聞いている私からしてみたら、ただの呪文だったりする。なんて文句を言ったって何も変わらないけど、言うことは自由・・・だと思う。まぁ、どうでも良いけど、ほんとにコンビニの人ってすごいなぁ・・・なんて思っていると、レジに歩いていくお客を見つける。ああ、レジやらなきゃ。そう思って、動かしていた手を止めて、レジへと歩き出した。

レジに置かれるのは今割引になっている缶コーヒー。そして缶コーヒーを取ろうとすれば、目の前のお兄さんが口を開く。

「・・・・・・45番を頼む。」

どこかのバーでそんなこと言われそうだ。なんて偏ったこと思いながら、私は 45番を探す。そして教えられたようにバーコードを通して、年齢確認のパネルを押してもらう。最後にお金のやり取りをするだけだ。そう思って、私はレジに出た数字を読み上げる。大抵の人はここで値段の通りの金額を払って、早々に立ち去るのだけど、目の前のお兄さんは違ったようだ。

「・・・袋にお入れしますか?」
「あー・・・大丈夫だ。」

袋に入れて欲しいかと思えば、そうでもない。一体何なんだろう。なんて思いながら、レジから出てくるレシートを手に持つ。

「レシートはいかが致しますか?」
「・・・・・・おう。」

まっ赤な顔をして受け取ったお兄さんを見て、何かあったんだろうか。と思う。それぐらいに彼の顔は赤い。

「・・・大丈夫ですか?」
「いやっ!!だい、大丈夫だっ!!!」

そう言いながらも、全くレジの前から動こうとしないこのお兄さんは、一体どうしたのだろう。首を傾げるのは失礼かもしれないので、私はただそこに立っていることしか出来なかった。


新人さんと大工さん 


「・・・お前、新人だろ。」
「あ、はい。」

もしかして、何か悪いことでも・・・?と少し不安だったけれど、次に出てきた言葉は全然違っていて。

「まぁ・・・その、何だ・・・。色々覚えることあるかもしれねぇが、頑張れよ。」

そう言って駆け足で出ていったその人のズボンは大工さんがよく穿いているあのズボンで。ズボンがたぽたぽ揺れるのを見送りながら、さっきお兄さんが買っていった煙草を見つめる。

「45ばん・・・。」

何となく、ほんとどうでも良いことなんだけど。もう少しここで頑張っていこうかな、なんて思ったある日の出来事。

(遅かったのぉパウリー。・・・で、あの子に何話しとったんじゃ?)
(!!み、見てたのかよ・・・というか、別にお前には関係ないだろ!!)



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