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トリック&トリート


「ねぇ、ゼブラさん、今日何の日かご存じですか?」
「は?調子のッてんじゃねーよ、そのくらい知ってる。」
「意外・・・・じゃなくて、今日はハロウィンなんですよ!!」

そう声高々に言えば、心底五月蝿いといわんばかりに細められる目。そんな顔されるとより怖いんですけど・・・って私が言いたいのはそんなことではなくて。

「だから、なんだってんだ。」
「というわけで、トリック オア トリート!」

手を差し出してお菓子を強請ってみれば、その凶悪な赤い瞳は呆れた顔でこちらを見て、「俺に菓子強請るなんて、お前正気か?」と呟いた。

「じゃあ悪戯しても?」
「却下だ。」

というか俺に悪戯したいなんて、調子に乗ってる奴にはお仕置きが必要か?なんて言い切るものだから、それ以上は自分も何も言えない。何にしろ、お仕置きは怖いし、それに怒らせたい訳ではないのだから。でもちょっと具体的な悪戯は考えてなかったものの、ちょっとくらいはゼブラさんに悪戯したかったなぁ、とぼんやり考えてみたのが、あんなにばっさりと言い切られてしまっては、所詮ハロウィンのイベントなんてそんな物だ。

確実に会話のキャッチボールをする気のないゼブラに、これ以上何を言っても無駄だなぁと思い、諦めて今日のおやつでも作ろうかと席を離れようと立ってみれば、耳元のすぐ近くで呼び声がする。

ぞくり、と無駄に良い声で名前を耳元で呼ばれれば正直ひとたまりも無い。少しかくりと機能をしなくなりそうだった腰を奮い立たせて、キッチンで蒸されているだろう特大のカボチャの元に行こうと席を立てば、それを引き止めるかのように再度、耳元で自分を呼ぶ声がした。ゼブラ自体は席から動いた様子もないので、おおかた音弾を飛ばしたんだろうと思う。視界を行き先のキッチンに戻せば、少し怒り気味のハスキーボイスが耳元で弾ける。

「おい、聞いてンのかァ?」
「聞こえてますけど、何でしょうか?」
「お前、俺が ”トリック オア トリート"って言ったときの準備はできてんのか?」

ばっとゼブラの居たソファを振り返れば、もうそこにはゼブラの姿は無くて、目線を自分の正面に戻すと、視界一杯に移り混むのは彼の顔。

「・・・ひゃ、」

咄嗟に驚いてしまえば、顔をしかめて早く適応しろという彼。ちょっと拗ね気味な、見た目より可愛らしい性格の彼に苦笑を隠せない。それに頑張りますとだけ応えてみれば、本題に話を戻される。

「それで、準備と覚悟は出来てるんだろうなァ?」
「お菓子を作る準備は出来てますが、覚悟って何ですか・・・。」

ニタリと微笑まれた顔は酷く楽しげで、それに嫌な予感しかしない。

「ぁあ? 勿論、俺に悪戯される覚悟に決まってるじゃねぇか。」

自己中心的な彼にはオアの意味なんて どこかに吹っ飛んでしまったんだなぁと、拉致されるように担がれた彼の背中でぼんやりと思って、笑ったらやっぱり怒られました。


悪戯ごと食い尽くしてあげる

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