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レモンクッキーの代償


「ねぇ、ねぇ、ナマエちゃん。朝だよ、起きてって。」

やめろ、揺さぶるな、まだ眠い。

「せっかく、僕が来たっていうのに寝てるって言うなら、僕にも考えがあるよ。」

まだ枕元で五月蝿く声が聞こえたが、揺らされなくなったと安心しきった顔でさらに睡眠を貪ろうと一息ついた途端、足下からじゅわりと不穏な音がした。

「・・・ん?」

覚醒しきらない頭で声の主を辿れば、満面の笑みをこちらに向けてくれるのは、いつもの全身黒タイツではない毒男、通称四天王一の優男のココだった。

「あ、やっと起きた?」

起きないから、苛立って布団ちょっと溶かしちゃったと反省の色の無い顔で謝られる。

「・・・何でいるの?」
「え、酷い。 今日が何の日か知らないとか言わないよね?」

卓上に転がっている卓上カレンダーを捲れば、今日はそういえばバレンタインだったか。一応何かしら用意はするべきだなと、先週くらいにグルメデパートで既製品を買ってある。

「あー・・・ココのは冷蔵庫。紫リボン包装のやつ。」
「あ、用意はされてるんだ。流石に抜かり無いね。」

ごそごそと冷蔵庫から包みを取り出すと、ココはふと首を傾げた。

「あれ、これ、中チョコレートじゃないよね。」
「箱を開けずに中を見ようとするな。」
「いや、本人の目の前で開けるのはどうかと思ったんだけど。」

しゅるりとリボンを解いて袋の中から箱をとりだして中を覗けば、中に入っていたのはチョコレートでなく、レモンクッキー。ちなみに他の四天王のはチョコレート製品である。

「なんで僕のだけチョコレートじゃないんだい? そんなに僕の事嫌い?」
「・・・嫌いだったら用意してないし、今頃外に放り出してると思うけど。睡眠妨害しやがって。」
「最後の一言は余計だけど、どういうことか説明してくれる?」

「・・・だってココさ、むやみやたらにタワー作るじゃん、この時期。」
「もしかして崖の上に積まれるチョコレートの事かな?」

タワーというのはこの時期になると、おモテになる優男さんの自宅前の崖にお客さんやら、グルメフォーチュンの住民やら、他のファンからの貢ぎ物・・・もといバレンタインチョコレートの山のことだ。去年はそれの処理をトリコがしていたのを思い出したので、チョコレートは止めた。

「正直、あれだけ貰ったら要らないかなと思ったんだけど、ほら、気は心ってことで。」
「気を遣わせちゃったみたいで・・・でも、僕としてはキミからならチョコレートでも良かったんだけど。」
「流石にあれ食べて、私からもチョコじゃ飽きるだろうと思ったんだけど。」

それを聞いてココは酷く楽しそうに口を歪めた。

「ああ、あの山はね、僕からトリコへのバレンタインチョコレートだからさ。」
「最低。」
「だから、僕にとってのチョコレートはキミから貰えるやつだけなんだけど・・・?」

ちらりと彼の手元を見遣るのは、そこにあるのが既製品のクッキーだからだと思う。本当に既製品で申し訳ないが、酷く食に五月蝿い彼に手作りなんて渡せるわけがない。

「来年からはチョコ買ってくるから、今年はそれで我慢して。」
「うん、構わないよ?今日一日、僕に構ってくれるなら。」


レモンクッキーの代償

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