ショート | ナノ
恋症状?


「(症状) 動悸 呼吸不全 目眩 」
「いきなり、何だ。」

目の前に見える赤色はコーラ片手に酷く興味なさそうに話の内容を聞いた。

「つまり、私、多分、ゼブラさんの事好きみたいです!」

そう相手に言い切るか言い切らないかの所でゼブラさんがコーラを逆噴射した。逆噴射したコーラは勿論目の前にいる自分に掛かるわけで。見事に水浸し、否コーラ浸しになった自分にゼブラさんは非難の声を上げる。

「お前・・・それ・・・」
「迷惑・・・ですか?」

ちょっとショックを受けて俯けば、頭上から軽い溜息。溜息の理由なんて幾らもない。ラブさんの誘惑を幾度と無くはねつけてきた、ゼブラさんにとって、きっと自分からの告白なんてきっと効果は無いことは大体想像していたから。きっぱり断られるだろうなぁというのは解っていたのだけれど。明らかに気分を落として溜息なんてされたら、嫌われてしまったんじゃないのか、なんてネガティブな事ばかりが頭を廻って悲しくなってくる。

「・・・勘違いだ。」

わしゃり、と髪を子供扱いするように撫でる大きな手。髪に酷く無骨な手が酷く優しく触れる。それが少しくすぐったくて、相手にされないのが悲しくて。泣きそうになるのをひたすら堪える。

「勘違い、じゃない。私の気持ちは、ゼブラさんには解らないもの。」

断られるのではなく、向き合って貰えていない。それが何より悲しい。ゼブラさんが否定したとしても、自分の今のこの気持ちは、自分にしか解らない。泣くのを堪えて、ムキになって反論すれば、ゼブラさんは「あー、」だとか「う"ー、」だとか唸って、やっぱり頭を撫でるのだ。

「お前、その症状、"恋"だとか甘いもんじゃねーぞ?」
「じゃあ何だって言うんですか。」
「お前、俺が怖いだけだろ。だから呼吸も速くなるし、心拍数も上がってるだけだ。」

そう言って、私を撫でるゼブラさんは少し悲しそうに目を細めた。きっと、ゼブラさんはゼブラさんなりに不器用でいろいろ苦労したこともあったのだろう。人間、一人では生きていけないのだと、孤独や孤立を自分で選んで涼しい顔をしていても、どこかで寂しいのだと。人から触れられることを拒んだ毒男が言っていた。

「怖く、なんかないです。」

自分の目の前ではゼブラさんは決して怒鳴ったりしない。その裂けた口だって、私と会うときはきちんと縫ってきてくれているのを私は知っている。ちょっと不器用なのと、その顔と、ちょっと喧嘩早い所が誤解されているだけで、他は結構優しいところもあるって私は知っているから、別段怖いなんて思っていない。それでも、体が勝手に恐怖を感じているのだったら、それすらも恋愛反応って事で良いじゃないですか。だって今まで、他の人にそんな反応したこと無いんだから。

「怖かったら、わざわざ、此処まで一人で会いに来たりしませんよ。」
「お前も物好きだなァ・・・。」

ゼブラさんはニタァと縫った口の端を上げた。

「だから、きっと"恋"です。 私がそう言ってるんだから"恋"なんですって!」
「じゃあ、もっと"恋"させてやるって言ったら、どうだ?」
「へ? それって・・・?」

頭上にあるゼブラさんと目が合ったと思った時に背筋に駆ける予感。それはきっと恐怖だけでは無いって私は知っているから。

「ったく、 お前の心音・・・うるせぇなぁ・・・」


A.吊橋効果 


それは期待しても良いって事で良いでしょうか?

  back