ショート | ナノ
ステップ踏んで、傾いて


動きやすい靴から、履き慣れないヒールの付いた靴へと。

「ルート・・・帰って良い?」
「ナマエ、駄目だ。」

雨がしとしと降っているのを見ながら、帰って良い?とまた聞いてみる。会合ならまだしも、パーティとか行きたくない。

「ルートだけ行けばいいのに。」
「ナマエの所にも来てただろう?招待状が。」

外交上、仕方がない。と言われ、思い出すのはポストに入っていた招待状。だからといって、何というか・・・正直行きたくない。

「ハイヒールとか・・・久しぶり過ぎる。」

そう言いながら用意されたドレスとハイヒールを身につけて、ルートの元へと歩いていく。

「・・・・・・。」
「?どうかした?」

よたよたと安定しない歩き方でゴールにたどり着けば、そのゴールが口に手を当ててそっぽを向いている。

「・・・おーい、ルート?・・・ん?」
「・・・・・・ん、あ。その、なんだナマエ。」

やっと振り向いてくれた彼をじっと見れば、視界に入るルートの肩。

「ナマエ!・・・その、だから。」
「・・・ルート、なんでそんな挙動不審なの。」
「いや、これはだなっ・・・!!」

小さい頃から彼を見ているはずなんだけど、最近のルートの行動が分からなかったりする。まぁ、いいや。それよりも私はルートの肩が視界に入り、そちらに興味のベクトルが向かう。

「すごいね。ルートの肩が見える。」

私よりも小さかったルートも今では私より大きく、ムキムキになってしまった。いつもなら肩は少し見上げないと見えないのに、ヒールがあるとそれが視界に納まっているというのが、何となく新鮮だ。

「・・・いつもよりも顔が近いし。」
「っ!!・・・・・・ナマエ!!」

頬を撫でれば、何故か顔を真っ赤にして怒られてしまう。(フェリシアーノだって、この前ルートにやってたのに・・・。)それを見て可愛いな。なんて、ムキムキな彼にはあまり似合わなさそうな単語が思い浮かんでしまう。 そしてくすくす笑えば「からかわないでくれ!!」とまた怒られる。

「そんなにカリカリ怒らなくても・・・っわ!!!」
「ナマエ!!」

ぐらりと視界がぶれる。なんてことない。はき慣れていないから、バランスを崩しただけ。 ただ、それが自分一人だけではどうすることも出来なくて、ルートの胸に飛び込む事になってしまったのだけれど。 ふと上を見れば、焦った表情をしているルート。

「全く・・・無茶をしないでくれ・・・!」
「るーと・・・。」

端から見れば男の胸に飛び込んでいった女。という風に見えて居るんじゃないんだろうか。 じっと彼を見つめていれば、何を思ったのか、赤い顔をしてそっぽを向かれてしまう。

「・・・・・・・・・るーとー。」
「なんだ。」
「・・・ルート。」
「っ、だからなんだ!!」

私が名前を呼べば、真っ赤な顔をして返事を返してくれるルート。

「・・・・・・。」

ああ、可愛い。

「・・・もっと高いヒール履いていこうかな。」

そう言ってぎゅっと腕に力を込めれば、頭の上からルートが慌てる声がして、ちょっと笑えた。


ステップ踏んで、傾いて


「そうしたら、お前はまたこうやって、倒れるだろう・・・。」
「良いじゃない?倒れそうになったら、ルートが支えてくれるし?」

そう言ってやれば、未だに赤みの引かない頬をした彼が睨んでくる。だけど、ごめん。あまり怖くないんだ。



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