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俺だけにしとけよ!


四角いPCの画面をじっと見つめてぼそり。後ろから人が近づいているのさえ気づかないほど熱中していた時の一言。

「あー・・・私ってオールバック好きなのかな?」

「名前、いきなり何を言って居るんだ、と。」
「えー?・・・あっ、なんでもない。」

PCに表示されている顔には見覚えがあった。最近のゲームとかに出てきているちょっと渋いサブキャラ。同じくPCの近くにはオールバックのキャラの出ている別ジャンルの漫画。

「お前・・・」
そういえばこの前会わせた同僚がそういえばオールバックだった。極めつけに仕事帰りだったこともあり、スーツ姿。なんとなく考えが読めたレノは深いため息をつく。

「ツォンさんか・・・あの人なのか・・・?」

目の前の意中の彼女はいつも俺を男として眼中に入れていない。確かに昔から一緒に育った事もあり、色々な所も見られているのでそんな対象になら無くったって。少しくらい意識するとかしてくれてもいいんじゃないか、と考えてしまう。

「へ?そんなんじゃないって。ちょっと格好いいなぁって思っただけ。」
俺には一言もそんなこと言わないくせに。
「俺は?」
彼女の手元に珈琲を置きながら訪ねる。
「うーん、難しいな。」
いったい何が難しいというのだろうか。少し期待してしまった自分が哀れで仕方がない。だが、このやっかいな奴に惚れてるのも自分。

「なんだよ、難しいって。」
「だって、レノはそう言うのじゃないから。」

やっぱり少し切ない。唯一の救いは彼女に特定の相手が居ないことだ。そんなのが居たら俺はとうの昔に壊れていただろう。まぁ、とりあえず相手の命の保証は出来ない。

「レノっていつもああいう人たちと仕事してるの?」
「まぁ、タークスだからな、と。」
「凄いね!この前のイリーナちゃん?だったっけ。可愛いし。タークス美形揃いだね。」
「なぜそこで、イリーナがでるんだ、と。」
「え?」
その言葉の破壊力は英雄の一撃を越えるんじゃないか?

「泣きたい・・・」
「なんで?レノ最近ちょっとおかしくない?」
原因はいつだって。君しか居ないんだけれど。

「鈍いにも程があるだろ・・・」
「え、あ、ごめん? もう付き合ってる感じ?」
「お前、解ってやってるだろ、と。」
「え?」
名前は、何がなんだか解らないと言った表情で首を傾げる。

「だろうとおもったよっ、と。」
「・・・?」

鈍すぎる彼女には何を言っても無駄だと解っていたから。どうせすぐ、たちの悪い冗談になってしまうだろうから。

「俺、もう寝るわ、お前も夜更かしするなよ、と。」
「うーん、解った。お休み、レノ。」




いつも通り彼女より早く起きて仕事に出かける。多分、相棒には爆笑されるのだろうと思うと少し憂鬱だった。髪をうっすら掻き上げて、いつもならしっかり着ないスーツをきっちり着こなす。

「全部、あいつの為だと思えば怖くないっ、と。」
少しツォンさんと同じ前髪が気にくわないが、それも気にしないことにする。そして職場でまじめにPCに向かってみる。少しすると相棒とツォンさんが一緒に扉から入ってくる。

「どうしたんだ、レノ!」
いつも冷静な相棒に至っては声を荒げ、ツォンに至っては開眼して固まってしまった。
「お前がまじめな服装で、まじめに働いてるなんて!!」
雪でも槍でも降るんじゃないかと心配する相棒に鉄拳を食らわせる。
「俺はいつだって真面目だろ、と。」
その後、イリーナが出勤してきて一番嫌な事を叫びながら笑っていた。
「どうしたんですか、先輩!ツォンさんとお揃いだなんて!!」
「本当、どうしたんだろうな、と。取りあえずお前、今日残業。」

言わせてみればほぼ毎日タークスは残業に近いのだが、今日はそれより多めに。イリーナに自分の分も押しつけて、定時上がりの奴らと同じ時間帯に家に帰る。あいつにも笑われたら生きていけないが。



「おっかえりー、レノ・・・って何その髪型!!」
髪の毛をいつもの髪型に手でくしゃりと戻す腕。かわいいけどね、なんて言われたって嬉しくない。似合わないならそう言ってくれればいいのに。

「俺じゃ、駄目なのか、と。」
「ばぁか、レノはレノだから良いんじゃない。」
くすり、と笑う彼女は悪戯好きの子供のようで。

「ねぇ、私が気づいてないと思った?」
「え、馬鹿、お前、最初から気づいてたのかよっ!!」
「さぁ、どうでしょう??」


俺 だけにし とけよ!

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