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ドアを挟んでもう少し


「私、バルフレアのこと好きなの!」

顔を朱に染めて、服の裾を掴みながら本気で言ったのに。「ナマエがフランみたいになったら考えてやるよ。」と一言。断ってくれた方がまだよかった、はぐらかされるよりかはずっとマシ。フランみたいになる・・・それは一番私にとって無理なことだからである。私の母はヒュムではなく、ヴィエラでは無いが、同じように時を長くする種族だった。父はそれを言うこと無く死んでしまったが、自分の生きてきた年数を考えればそう考えるしかない。異なる種族間では可能性は低いながらもまれに子供が生まれる事がある。そしてその子供には何かしら異なる特徴があると聞く。それは、寿命であったり、姿であったり様々だったが、私はどちらにしても異様だった。

私は大人でもなく、子供でもなく、女でもなければ男でもない中途半端な生き物なのだから。 そんな私では相手にもならない、と言うことなのだろうか。もしくは今まで家族同然に暮らしていたのでそう言う対象にはならない、と言うことだろう。もし、大人になれたのだとしてもそれはかなり先の話。その時には彼は多分もう居ないのだろうから。例え体が半端なものだとしてもこの恋心は本物だって信じている。

「あーのーなー、ナマエ、いい加減にしろ。お前はただ勘違いしてるだけじゃないのか?」
どうせヴァンやパンネロ達に何か吹き込まれたんだろうけどなー、と軽く言ってのける彼。

「違うの!」
そう言い切ると彼は意地悪く問いつめてくる。
「本当に違うなんて言い切れるのか?お前はまだ子供なんだからそう言うこと言わないの。」
頭を撫でながら、といういつも通りの子供扱い。
「悪い大人はいっぱい居るんだから、男の前で軽く口にするんじゃない、襲うぞ。」
最後の一言は大げさに手でフリを付けつつ彼は言う。
「子供じゃない。・・・歳だってバルより年上なんだよ?!」
「ナマエ、だとしてもだ。外見はまだ子供同然だし、中身だって「襲えば?」・・・はぁ?」

「襲えばいいじゃない。襲うつもりなんて無いくせに。」
彼はいつもはぐらかして、あやふやにして、私の気持ちでさえ。
「男はみーんなオオカミだってオヤジに習わなかったのか?」
「そんなの言ってるのバルくらいだよ、多分。」
すこし、バッシュも言いそうだなーとか思ってしまったり。

「お前なー、俺をからかうのもいい加減にしろよ。 俺がどんな気持ちで・・・」
「知らないよ、バルの気持ちなんて。なにも言ってくれないもの。」
少し最後の言葉が聞き取れなかったのだが良しとしよう。
「少し言いたかったんだけどね?私ずーっと子供じゃないんだよ。一応背だって少し伸びてるし。」
そんなに大きく変化はしていないのだが、少しずつ変わってきている。

「言ってくれないとわからないことだってあるんだから。だから、ね?」
「ナマエ、お前はいつもそうやって揚げ足とって・・・。」
「だってそれが私だもの。」
ふふ、と笑ってみせると隣で少し彼が肩を落とす。

「バルフレア、大好きだよ。」
「解ってるよ、この前お前が俺に言ったときから。」
彼にしては珍しく少し照れているようだった。

「あー!照れてるー、可愛いー!」
言い終わるか分からないうちに一瞬視界に影がかかる。何が起こったのか私が理解するまでに3秒の時間を要した。

「他の男はどうか知らないが、少なくとも俺はオオカミだぜ?」
「うわー・・・。」
彼のしたことに驚いた私は、唇を押さえながら顔を紅くした。
「うーん、少し甘いかな?」
彼は見せつけるように自分の唇を嘗めてみせる。

「別にバルなんか怖くないし。」
少し言い訳じみてしまった呟きに彼は笑い出す。
「それにね、バルになら食べられても良いかなーなんて。」

「は?」
「バルが私の事、子供扱いしなくなったら、ね?」
「ちょっ、ナマエ!お前意味解って言ってるのか?!」
彼の言葉を後ろに聞きながらシュトラール内の自分の部屋まで走る。

ドアの外には狼、中には赤ずきん。
逃げ場なんて必要ない。だって、私は狼なんて怖くないのだから。


ドアを挟んでもう少し


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