騎士と乙女とお姫様と セオリー通りにならない童話なんて存在しない。でも、そればかりを追っていては真実にはたどり着けない。物語の主人公は一人だとしても、現実の主人公は自分自身。それぞれにそれぞれの物語があるに違いないのだから。 「ナマエ、私が悪かった。すまない、許してくれ。」 何度も私に向けて謝罪の言葉を並べる彼。 「どうせ私はお姫様じゃないですよーっだ!」 自分でも子供らしいとは解っている。でも唇から零れだす言葉は止まらないのだ。 「そんなに言うんだったらアーシェとでも付き合ったら良いじゃない!」 事の発端は単純明快。男性陣の集まる会話に聞き耳を立てていたところ、自分の名前がある会話に上がっていた。 本来ならば、メンバー内の話だ。別に気にするところではないだが。 『ナマエは誰かに仕えて貰うって言うより、自分から突っ走るタイプだからなぁ。』 『・・・ナマエと殿下は違う。』 『騎士も大変だな。バッシュ』 バルフレアとバッシュの何気ない一言が胸に刺さった。お姫様、なんて柄じゃないのは解ってる。でも、女の子としてみれば誰だってお姫様に憧れるに決まっている。それがまだ普通の女の子達の中で、だったら別に気にしない。それならば、自分だってお姫様になれる可能性だってあるのだから。でも。そこに本物のお姫様が居るならば話は別物だ。何処を取ったとしても、普通の女の子じゃお姫様には敵わない。物語にしてみればお話の登場人物としてスポットライトすら危うい役柄だ。それにパンネロと比べても素直じゃないし可愛いくない。 「わかってますよーっだ!!」 「ナマエ、私はそういう意味で言ったのでは・・・!!」 後ろから走ってくる男の手が服の袖を掴む。 「離してよ!」 いつもならおとなしく引き下がっているであろう彼の目が違った。 「聞いて欲しい。」 「謝罪なら聞き飽きましたー。てゆうかその癖なおした方がいい。苛々する。」 その目に少し竦んだことを悟られないようにいつも通りの口調でごまかす。 「すまな・・・すまない。」 彼は口から出ようとする言葉を止めようとしてまた謝罪を口にする。 「もう、それはいいから。で、なに?呼び止めたんだから理由くらいあるんだよね?」 「あれは、そう言う意味で言ったんじゃない。それに、私は・・・」 「知ってる。アーシェの騎士、でしょ?バッシュ。」 口下手なバッシュと私では相手になるはずもない。それに、そもそもバッシュに謝られても困ることなのだ。違うことは解っていることだし、今苛々しているのは只の劣等感。 「解ってるの、解ってるから、辛いの。」 「私が殿下とナマエを違うと言ったのは、当たり前だろう。」 「だから・・・」 「最後まで聞いてくれ。それに、ナマエが王族だったら私が困る。」 「なんでよ?」 「もし、ナマエがもしそうなら、私は君にキスも出来ない。」 少し茶化しながら宥めるように髪を撫でる彼の手はいつも優しい。 「馬鹿、」 髪を撫でる彼の手を振り払うと頭上からキスが降ってくる。 「本当に、馬鹿。」 「それはナマエが、と言うことか?」 「五月蠅い。両方よ、両方!!」 お姫様よりも 私には只の乙女の方がマシ back |