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チョコレートの調理法


今日の日のために乙女達は手作りで彼にチョコを用意するのです。そのチョコには甘い恋の味と少し苦い恋の味を織り交ぜて心を込めて作るのです。チョコレートは乙女の祈り 。美味しいチョコレートを作る秘訣、知りたくありませんか?

そんなテロップが町中に踊り出す頃。チョコレート会社の戦略に乗せられて、一人部屋に籠もって試行錯誤。右手にはチョコレート、左手には料理本。

「無理だって・・・そもそも湯煎って何、やっぱりお湯入れるの?」

去年も彼に渡そうとチョコを作ろうとしたが“湯煎”の時点で失敗した。
湯煎・・・と書いてある料理の本をみて、すぐにチョコレートの中にお湯を流し込んだのだが。方法はやはり違っているので、チョコとお湯が分離してよく解らない物質になってしまっていた。

「湯煎の方法・・・124Pっと。あー湯煎ってそうやるんだ、面倒だな。」
溶かすんだったら直火の方が溶け易くない?下の説明まで詳しく読まずにチョコレートを火にかける。


−−−かき混ぜつつ数分−−−


「おー・・・やっぱりこっちの方が速いんだよねーって・・・少し焦げてる?」
慌てて火から鍋を降ろす。少し焦げたらしき部分を取り除きつつ、面倒だがボールに移し替える。
「まぁ少しだし、大丈夫だよね!それでここで生クリームっと。」
生クリームを入れる、と書いてあったので、面倒だがしっかり泡立てておいたクリームを加える。実のところはその“泡立てる”と言うのも失敗なのだが。如何せん、【生クリーム=泡だった白いクリームのこと】だと思ってしまっている。それを型に綺麗に流し込んで冷蔵庫の中に入れる。少し途中の行程で味見をしたのだが、あながち味は悪くなかったように思う。

「結構チョコレート作るのって簡単じゃん?」
去年はアウトだったチョコもなんとか形になりそうだ。今年こそは彼にチョコをあげたいなぁ・・・。

そんなことを考えてるとすぐ後ろで声がした。
「なぁーに、一人でニヤニヤしてるんだ?」
そういいつつ彼は両側のほっぺたを後ろからむに、と引っ張る。

「ちょ・・・ばりゅふえあ!」
私の反応に満足したのか両のほっぺたを手を離し、右手で私の唇をなぞる。
「チョコ、ついてる。出来上がるまで待ちきれなかったのか?」
ぺろり、と嘗めるその指が彼の唇に運ばれるところを何気なく眺めてしまう。

「ん、ナマエどうした。俺に見惚れたか?」
「えっと・・・なんて言おうとしたのか忘れました。」そう言うと、彼は少し苦笑する。
「そこは、素直に“見惚れました”って言うところだろ、ナマエ?」
あながちそれも間違いではなかったのだが、素直に告げると彼は余計につけ上がる。

「えっと、思い出したよ。味は如何かな?って聞こうとしたんだよ。」
話題をそらすためにあえて彼の言葉を受け流す。それを彼はあまり気にしていない様子で答えた。
「ああ、普通に美味かったよ、少し苦いがビターなのか?」
使用したのはスイートのチョコだったのだが、勘違いしてくれているのなら、あえて言う必要も無いはずだ、きっと。

「あ・・・うん。そう、ビターなの!バルフレアは甘さ控えめの方が良いかなって。」
「俺は甘い方が好きなんだけどな、“俺のために”ってゆうのが嬉しいから目を瞑ろう。」

実は甘党なのは知っていた、んだけど・・・。それに、理由は知らないほうが幸せだ。
「お前も喰うか?」
彼の指には先ほどのチョコレート。そんなに苦かったかな・・・?と思いつつそれを嘗める。

「普通・・・だよ?」
「俺はこれは今まで食べた中でも美味い部類と思うんだが、意味、解るか?」
「何となく。」
そう発する前に唇にキスが落ちてきた。もちろん味はチョコレート味。


隠し味は貴方への恋心です


(一つ聞いて良いか・・・焦がしただろ。)
(げ・・・ばれた、何で!?)
(そこに置きっぱなしにしてあるチョコの包み紙、Sweetって書いてあるから。)


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