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とても愛しくて酷い人


先日、ハリーが家まで訪ねてきた。彼は私を見て、「母さん?」と呼んだ。

「ごめんなさい、私にまだそんな大きな子供はいないの。」
笑った顔をしたつもりだけれど上手く笑えていたかな。ハリーはリリーの息子なのだという。息子の彼からも私が彼女に見えていたのならよっぽど似ているのだろう、彼女と。

「えっと・・・先生の妹さん?」
「解ってるんでしょ、恋人よ。一応、ね。」
「それで、英雄さんがここまで何をしに?」
「これを・・・」

彼の手に有る箱を少し見て、それを受け取る。
「ずいぶん小さくなってしまったのね、セヴィ」

昔は私なんか見下ろす程度だったのに。いまは私の抱える白い箱の中に収まってしまっている。ふふ、と自嘲気味に笑う私を彼は見つめていた。

「泣くと、思った?」
「そう、思いました。」

まだ、信じられない。
「まだ、泣けないもの。だってまだあの人が死んだなんて考えられないから。」
彼は私と目が合うなり、俯いてしまった。

「ごめんなさい、何か、思い出させてしまったかしら。」
精一杯の笑顔で、彼に笑いかけると、彼は顔をくしゃくしゃにして泣きながら言った。
「僕は、最後まで、あの人を信じられなかった。」
彼の言葉の真意に気づいて、顔が自分でも引きつるのが分かった。

「いいのよ、もう。」
その言葉に彼は声を荒げる。
「でも!!」
「確かにわかりにくい人だったから。仕方のないことだわ。」
そう、言ったとき、彼は泣いていた顔をさらに歪めた。

「それに、どんなに謝られてもセヴィは帰ってこないわ。」
「先生は・・・あの人は最後に、母さんではなく、貴方の事を気にしていました。」

その言葉に耳を疑うしかできなかった。 だって、彼は、私の中のリリーをみていたから。最後に、自分の事を少しでも思っていてくれたのだと、それならば彼は。なんて不器用な人なのだろう。(本当に、最後まで、不器用な人。)

だからこそ、リリーに彼の気持ちは伝わらなかったのだし。だからこそ、最後になるまでハリーも彼の真意に気づかなかった。

「本当に。不器用な人だったのね、セヴィって。」
頬にぬるい物が伝っていく感触を感じ、そこでやっと自分が泣いていたことに気づく。だって、よく考えたら、彼の真意なんてすぐ気づくことが出来たのに。きっかけは彼の母親、そして彼の初恋の人に似た面差し。けれど、二人で暮らす中で芽生えたものは、一方通行ではなく確かなものだったのだと。それに、今更気づかされるなんて。

「それに、私。セヴィが居なくても平気よ。私には、彼が残してくれた物があるから。」
「スネイプ先生が残したもの・・・?」
そっと、彼に歩み寄り、彼の手を自分のお腹の上に乗せる。

「私は、一人、じゃないもの。」
あの人が居なくても、私にはあの人との子供が居るから。
「貴方にも、だれか、そういう人が居ると良いわね。」
人と言うものは誰かとともにあることで、喜んだり、悲しんだりする。それを共有できる、恋人、親友、家族みたいな人が。

「私たちは、失ったものも多いかもしれないけれど、これから新しく作っていくことも出来る。」
こんな風に。と泣きはらした彼を抱きしめた。
「セヴィにとって貴方は彼女が残した宝物だったけど、私にとって貴方は彼が残した宝物なのよ?」
「・・・ありがとう、ございます。」
小さな英雄は何度もそういって、帰っていった。


今ここに残るもの

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