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高飛車カシスムース


「ロー・・・これさァ、何だと思う?」

ナマエはそう言って航海日誌を綴りながら笑い、ローに向かってゴーグルを投げつけた。一目見た瞬間に誰のものなのか、なんて簡単に分かる悪趣味なデザイン。レザーのような黒地に厳つい飾りが施されたそれの持ち主は今頃どうしているのだろうか。
「・・・盗んだのか?」
「人聞きの悪い事言うな。普通に落ちてたから拾っただけ。」
聞けば、数日前に落ちているのを拾ったらしいのだが今ひとつ信じられない。
「さっき、向こうでペンギンが連絡してたからそろそろ乗り込んでくるんじゃない?」
ふぁ、と欠伸をしながら航海日誌を閉じてベッドに寝そべる妹のナマエに溜息。

「・・・それで?」
「私はもう寝るから、ローが出迎えてあげれば?」
「なんで、俺が。」
その様子だと多分出迎えというよりかは一悶着といった方が正しいのではないか。お前が出ろよ、そう言おうとしたローに眠そうに時計を指さした。
「ローの名前で呼びだしておいたし、もう私は寝る時間だもん。」
「・・・ナマエ、お前はじめからそのつもりだったな・・・!!」
「良いじゃん? お気に入りでしょう、一緒に連むくらいには。」
きっとコレは前に天竜人の件で面倒事を起こした時の腹いせなのだろう。ニタリ、と眠そうにしながらも口元の口角をあげて笑うナマエにローは溜息を吐いて、次の言葉を紡ごうとしたときに、甲板から大きな音がした。
「ったく、面倒だな・・・」


甲板に出てみれば案の定、向こうに見える人影。
「お前もノコノコ呼び出されてるんじゃねーよ。」
「・・・あ"ぁ?」
ローがついた溜息すら皮肉に聞こえたのだろう。キッドはギラついた瞳でこちらをにらむ。
「待て、ユースタス屋。ここは穏便にだな・・・」
「俺のゴーグル盗んでおいて、よくそんな事が言えたな。」
やはり盗んでいたのか、と溜息を吐けば頭の中で双子の妹の笑い声が上がる。いかにも悪趣味な、あいつがしそうなことだ。

「・・・面倒くせぇな。」
「関係ねェ、"反発"!」
「・・・お前も、ゴーグルごときでムキになるな。」
ひょいひょいと飛んでくるものを避けながら、ユースタス屋に近づき、ぽい、とキッドに向かって投げつけてやればキッドは空中でそれを掴んだ。
「馬鹿にすんなよ、トラファルガー・・・"吸着"!」
ぐぐっと引き寄せられたのは武器だけではない。足下すらぐらりと揺れる。それもそのはず、ここは金属で作られた潜水艦の甲板なのだ。

「馬鹿野郎! 海に落ちたいのか!」
「・・・チッ、」
すぐに能力を解除した男の懐に飛び込んだのだが、如何せん周りをよく見れていなかった。 流石億越えだけあってうちのペンギンでは止めきれなかったらしい。ドボン、とペンギンが浅瀬に落とされたのだろう音と共に横から駈けてきたのは、殺戮武人の名称された向こう方の副船長で。とっさに避けたものの、キラーからの不意打ちが胸あたりを掠める。急所を厭わず狙ってくる辺り、そこはやはり海賊と言ったところか。

「・・・ナマエ!お前も加勢しろ!」
居るのは分かってるんだ、と声を張り上げれば聞こえてきたのはやはり笑い声。
「・・・観戦にもそろそろ飽きてきた所だし、私は構わないけど・・・なに呆けた顔してんの。」
ねぇ、ユースタス屋?
そういって扉を蹴り開けて出てきたナマエに、キッドは目を瞬かせた。
「なっ、トラファルガーが2人だと・・・? どういう事だ説明しやがれ!」
「私とローの見分けがつかないとか・・・パシフィスタとくまを間違えただけあるみたい。」
ナマエが笑いながら茶化せば、不機嫌な舌打ちが聞こえる。

「馬鹿だから仕方ねェだろう。」
「まぁ、私はかわいらしくて嫌いじゃないけどね。」
ふぁ、と緊張感の欠片もない様子で欠伸をしたナマエは品定めするようにじっとキッドを見つめてから微笑む。
「・・・初めまして? 兄貴が先日は世話になったみたいで。」
ふつふつと沸き立つ怒りを隠そうとしないナマエに、ローは頭を抱えそうになった。部下と違ってこの双子の妹は酷くキレると俺でも手がつけられない。

「・・・兄貴、だぁ?!」
本当なのか、と疑った視線をむけてきたキッドにローは頷いた。
「・・・一応は妹だ。 不肖の、だがな。」
揃いの帽子を投げ捨ててナマエは高らかに笑いながら、舌なめずりをした。
「・・・そういうコト!」
笑うナマエに見惚れていたのか、対処が遅れたユースタス屋に蹴りを一発お見舞いしてやる。
「俺の妹を卑猥な目で見るんじゃねぇ・・・!!」
「いいじゃねぇか・・・!!じゃじゃ馬は嫌いじゃねぇ!!」
その言葉にくらりとする。本当にナマエは問題事を惹き付けるエキスパートだ。

「ナマエって言ったな。俺の所に来ねぇか。」
高らかに声を張り上げたユースタスにさらに面白そうにナマエは笑った。
「私に命令するな、ユースタス屋!!」
「・・・だそうだ、残念だったなユースタス屋。」
戦闘体勢に入ったキッドにキラーも同じようにして獲物を再度構える。

「馬鹿言え、俺は俺のやり方でやるだけだ。」
「やれるもんならやってみなよ!」
「とりあえずお前ららいっぺん頭冷やしやがれ。"ROOM"」


高飛車カシスムース


(ったく、殺戮武人屋。 今回はお互い痛み分けってコトにしてそいつ連れて帰ってくれ。)
(・・・違いない。)


title by 21グラムの世界

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