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甘口カレーはいかが?


ファントムハイヴ家の厨房から鼻腔をくすぐる少し辛い臭い。
少し前にセバスチャンがずっとカレーを作り続けていた時と同じ香辛料の薫りだ。
評論会にはメイドは連れて行って貰えず結局カリーは食べれていない。坊ちゃんにせがんでも当分カリーは食べたくないとか仰って。
それなのにこの厨房からする薫りは何なのだろう。

「いい匂い・・・ってアグニさん?!」 
「ああ、ナマエさん、どうしたんですか?」
「いや、少しカリーの匂いがしたので、つい。」
「ソーマ様が食べたいと仰るので少々厨房をお借りしました。すみません。」
律儀にそしてさわやかに礼をしながら謝罪してくる。
「いえいえ、爆破しない程度ならいくらでも良いんじゃないですか?」
ファントムハイヴ家のコックよりよほどマシな使い方だ。
「そうですか、それは良かった。」
アグニさんはにこりと私に向かって微笑みかけた。
彼の微笑みは正直、心臓に悪いと思う。今だって心臓が早鐘を打って止まない。
それに、目の前には念願の(?)カリーがあるのだ。黙って見てはいられない。

「あ、アグニさん?」
少し緊張しながらカリーの入った鍋を混ぜる彼に聞く。
「はい?何でしょう、ナマエさん。」
「あの、少し、私もアグニさんの作ったカリーが、食べたいなぁ・・・なーんて。」
「私ので良いんでしょうか。評論会ではセバスチャンさんのカリーのほうが美味しいと言ってましたし。」
地味に評論会でセバスチャンに負けたことを根に持っているらしい。凹んでいると行ったほうが正しいかもしれない。
「私、セバスチャンのカリーも食べてないので分からないですけど、アグニさんの作るカリーも美味しいと思うんです。」
そして、それにとそれに付け足す。
「それに、ソーマさんだって言ってました。アグニさんのカリーは美味しいって。」
「ソーマ様がそんな事を?!」
 アグニさんはお玉を持ったまま、男泣きしてしまう。
そういえばアグニさんが激しい人だと言うことを失念していた。

「えーっと、アグニさん?」
少し経ってから、彼の肩を叩いて本題に入る。
「それで、ですね。そのカリーを少し頂けないかと。無理にとは言いませんけど・・・。」
その一言にアグニは手取皿を持ってお玉でそれに少しカリーを入れる。
「ソーマ様用に一人分しか作ってないのであまり多くはあげられませんが、味見ということで。」
「あ、ありがとうございます!!」
一口小皿に唇を付けて飲む。
「美味しい。・・・でも結構辛いんですね。」
美味しい事には美味しいがのどの奥が辛いと悲鳴を上げる。
今まであまり辛い物など口にする機会がそもそも無かったこともある。
「カレーは辛いものですよ。それに、ソーマ様のは辛口ですから。」
「そう、なんですか?」
「インド人ならこのくらい平気で食べてしまいますけど、英国の方にはすこしきつかったかもしれません。」
その言葉に少し納得する。
「カリーがお嫌いでないのでしたら今度、またナマエさん用に辛みの少ないカリーでも作りますよ?」
「本当ですか?」
その一言に顔を上げて抱きつく。
「ええ。・・・って、抱き、っ!!」
少し黒い肌を紅く染めてアグニさんがもがく。 それに気がついて、ぱっと彼から腕を放す。
「す・・すみませ・・・なんか勝手に抱きついちゃって・・・!!」
「いえ、こちらこそすみません、驚いたとは言え、慌てすぎ、ですね。」

そのまま二人で固まっているとソーマさんが厨房に入ってくる。
「おい、カリーはまだなのか、アグニ?」
その声にアグニが素早く動き出す。
「あ、ただいまお持ちいたします。」
そう答えたアグニからナマエに視線が移る。
「二人して、何をしてたんだ。顔が真っ赤だぞ?」
そのソーマの言葉に二人の顔がまた紅くなったのは言うまでもなく。私たち二人を見比べてソーマはにやりと笑った。

「もしかして、邪魔してしまったか?」
「「そんなわけ、ありませんから!!」」

カリーを食べながら二人の必死な弁解聞くソーマはずっと笑っていた。


甘口カリーはいかが?


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