ショート | ナノ
すばらしきこの世界


「早く大きくなりたい。」
そう呟いた俺に困った笑みを作りながら、頭を撫でてナマエがこう言ったのを覚えている。
「まだ、守られてなよ。・・・今の世界は君に優しくないから。」
それを聞いて、悪いことを言ったのかとも思ったが、それでも俺は早く大きくなりたかった。

「・・・ルート、この子にいきなり訓練させるのは酷という物じゃないのか?」
「ヴェー、さっすがナマエだよー!俺のことよく解ってる!!」
そう言って、ナマエに抱きつくヴェネチアーノに少々苛ついているのを押さえながら、恨めしげに彼女を見る。
昔からナマエはなんだかんだ言ってヴェネチアーノに甘い。そして俺はそんなナマエに頭が上がらない。
「・・・でもね、徐々に訓練の量を増やすのはありだと思うよ、ルート。」
内心困っていた俺を知ってか、彼女はそう呟いた。
「うぇぇぇぇ!?」
「取りあえず。・・・観念しなよ、ヴェネチアーノ。」
悪者の様に笑った後、ナマエは凹んでいる奴を引き剥がしながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「ヴェ・・・ナマエ何処か行くのー?」
「うん、買い物にね。」
「付いていこう。「あ・・・いいの?ありがとう、ルート。」
じゃぁ、俺家でお留守番ー。とかいって、手を振るヴェネチアーノに手を振り替えしながら、俺達は買い物に出かけた。

買い物を済ませた後、ナマエが少し遠回りしたいと言い出した。
「別に構わないが・・・何かあったのか?」
「え、少しね。懐かしいなぁって・・・昔は良く2人で買い物したと思って。」
ギルは要らない物良く買うから、あいつは家に留守番させてさ。2人で手を繋いだり、ちょっと寄り道して買い食いとかしたなぁって。
長い階段を昔を思い出すようにナマエは歩いていく。
「そう、だな。・・・よくそう言うこと「手、繋ぐかい?」・・・ばっ馬鹿!!」
「あはは、冗談だよ。・・・・・・でも、ホントに大きくなったよねぇ。」
少し寂しそうに言いながら、どんどん階段を上っていく。
「昔はよく、大きくなりたいとか言ってたね。・・・どうよ?大きくなってからの感想ってのは。」
「あまり・・・変わらないな。周りの人間は相変わらずだし、兄さんもいるし・・・。」
それに、ナマエもいる。
その言葉を言おうか迷っていると、彼女は笑いながらこう言った。
「そこは、世界が変わってみえるーとかじゃないの?」
「そう言うのは、大きくなった最初の時に聞いて欲しかったな。」
「あ、そうか。今はコレが普通か。」
納得したように、一人で頷いているナマエを見ながら、俺はどうせ聞こえないと思って呟いた。
大きくなって色んな気苦労は耐えないし、仕事も大変になって辛い。・・・だが。
「・・・まぁ。大きくなって、ナマエを手伝える様になったことは、大きくなって良かったと思う。」
そう言い終わるのが早いか、彼女はぱっとこっちを向いた。聞こえたのかと思って焦っていたら、彼女の口からは別の言葉が発せられた。
「ねぇ、ルート。・・・今、君は幸せかい?世界は君に優しい?」
それを聞いて、ホッとしながら頷くと、向こうも幸せそうに笑った。
そして、階段を上っていくナマエを見ながら、俺はある疑問が浮かんだ。
どんな気持ちでナマエが俺に聞いたのかは知らないが。
ふと俺は足を止めて、同じようにナマエに聞いてみた。


今の世界は貴女に優しいか?

                                      
「んー、優しいかは知らないけど。」
数段無言で登った後、そう言ってナマエはこちらを向いて笑った。
「良かった出来事や、悪かった出来事、昔の色んな出来事が、懐かしめるような世界だから、平和な世界だと思うよ。」
そう言い終わった後、俺の頭を昔のように撫でる。
「じゃぁ、帰ろうか。」
恥ずかしそうに笑った後、彼女は俺がすぐ同じ段差に来れるように、ゆっくりと登っていく。
その後ろ姿を見て俺は少し笑った後、彼女に追いつくべく登っていった。

今はまだ貴女を守れないかも知れないが、貴女と肩を並べることが出来るのが凄く嬉しいんだ。


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