ショート | ナノ
遠回しにしか言えない


ぱらぱらと雨が降り始める中、控えめに鳴るのはチャイムの音。
「やぁルート。」
「・・・ナマエ。」
傘を差してそう言うのはナマエで。俺は「またか。」と小さく呟いてしまう。
「・・・・・・良いじゃないの。雨の日は気持ちが塞ぎがちだからね!気分転換させてあげてるんだよ。」
「別に俺は大丈夫なんだが。」
「まぁ、良いから。良いから。」
そう言ってぐいぐいと俺を押しながら、俺の家へ侵入していった。

「ナマエ。泥とかをちゃんと拭いてから、中に入ってくれ。」
「あのね、何回来てると思ってるの?それぐらい解っているし、私、君より年上なんだから。」
「・・・すまない。」
フェリシアーノが来た時のように注意をすれば、ナマエの返り討ちにあってしまった。
何も言えなくなってしまった俺は、来客用のカップを取り出すことに決めた。

「ごめんね。いつも、コーヒー入れさせちゃって。」
「・・・いや、別に。俺も休憩したかったからな。」
そう言ってこんな雨の日に彼女とコーヒーを飲むのは何度目だろうか。
彼女は雨が降ると大抵ここにやって来る。・・・理由はよく解らないが。
そんなことを考えていると、ふと視線を感じて顔を上げる。見ると、ナマエが複雑そうな顔をしている。
「・・・ナマエ。どうかしたか?」
「・・・・・・・・・・あー・・・あのさ、ルート。」
少し言いにくそうに口を開き始める彼女に、俺はなんだ。と聞き返す。
「あのさ、邪魔だったら良いからね?帰るから。」
「ナマエは別に仕事を邪魔しないしな。そんなことは、思ったことがない。」
と言えば、不自然に笑っていたナマエが困ったように笑い始める。

「・・・・・・ルートは良い子過ぎるからなぁ・・・。」
「こっ、子供扱いしないでくれ!」
「良いじゃないか、私は君よりも年上なんだから。」
そう言って俺の頭を撫でてくるナマエを見て、この人はまだ俺のことを弟か何かだと思っているのだろう。と考えてしまう。
「・・・そう言えば、なんで雨の日にいつも来るんだ?」
この流れを変えるように聞けば撫でていた手がぴたりと止まる。そしてナマエは少し考えた後、口を開いた。
「あー・・・雨がさ、降ってるから。空が見たくって。」
「・・・此処に来たって見えないだろう。」
と言うか、空がそんなに好きだっただろうか。昔のことを思い出しても、そんな風には見えなかったのだが。
そんなようなことを呟けば「好きかな・・・うん。青空が特に。」と言われてしまい、少し空に嫉妬してしまいそうな自分がいた。

「空が見たくなったらまた来るから。その時は宜しく!」
そう言って、帰っていく彼女を見送りながら・・・会いに来る理由が俺だったら嬉しいモノなんだが、と心の中で呟く。
灰色の空から少し見え始めた青色に、嫉妬してしまったなんて言えるわけがなかった。


空を、見に来ました。


ナマエが帰ってしまった後、そう言えば、結局‘空’とは何だったのだろうか。と仕事の合間に思い返してみて。
窓越しに空を見れば、青色が空の大体を覆っていて。彼女は今、これを見ているのだろうかとか、馬鹿なことを思ってしまう。
「・・・・・・ん?」
馬鹿馬鹿しいと思って視線を空から外すと、見えるのは小さな青色。青空かと言われれば、少し疑問も残るが。
「・・・・・・。」
取りあえずこれがそうだとするならば、俺はもう少しいい気分で青空が見れる気がする。
あの人もなかなか不器用で、素直じゃないな。そう思いながら、電話の受話器を手に取った。

「ナマエ。晴れている日でも、来て良いからな。」
「え!?な・・・何のことか、解らないな。」
「まぁナマエがそう言うなら、そう言うことにしておくが・・・取りあえず、いつでも来て良い。」
そう言った後、俺は静かに受話器を落とす。多分、あっちは赤い顔をして大慌てをしているに違いない。
今度会うときが楽しみだ。そう思いながら、もう一度窓を見る。
自分の青い瞳が楽しそうに細められているのを見た後、俺はまた仕事に取りかかることにした。


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