ショート | ナノ
早めのサンタクロース


今日は12月24日。私は現在進行形で明日の準備をしている。
どうせ、他の家へ行って過ごすのだろうが、それでもクリスマス用に買ってきた飾りをモミの木に飾り付ける。
そして何より、今年は新しいライトを買ってきたのだ。(環境に優しいとか言うLEDライトで出来たやつ。)
クリスマスの雰囲気に浸るのが少々短い気もするが、まぁ、忙しかったから仕方がないと自分に言い聞かせる。
「・・・あ。こいつの存在を忘れてた。」
そう言って、私の手にあるモノは一番上に飾られるはずの星だった。(しかし、私の身長では少し足りない。)
なのでイスを持ってこようとした時、ドアを叩く音がした。

「どなたか知りませんが、ベルありますよ・・・って、なんだ不憫か。」
イスを片手に持ちながら、扉を開けると。そこには可愛らしいヒヨコが頭に乗った男が居た。
「何だよナマエ、不憫って何だ。」
「あぁ、ごめん。“普憫”だったね。」
「あんま変わってねぇっつーの!!」
そう言って怒る彼を見ながら、ふとあることを思い出した。
「ん、そうだ。せっかく来たんだからさ、ちょっと付き合ってよ。」
「・・・ナマエ。それってどういう?」
「これ、一番上に取り付けてよ。あ、これイスね。」
彼の右手に星、左手にイスを持たせて家の中に入れる。
「おい、ナマエ!!「頼むよ、ギルー。あとで何か奢ってあげるからさぁ。」
そう彼を言いくるめて、私はモミの木がある部屋まで誘導(?)した。

「ナマエ、こんなんも届かねぇのかよ。ケセセセセ。」
俺はこんなイスが無くったってこれを飾れるぜー。とか言って、いとも簡単に乗っけてしまう。(その行動に、ちょっとイラッとした。)
「すみませんねぇ、身長が違うんですよー。・・・って、ギルは何しに来たのさ。」
「・・・その、だなぁナマエ!!」
「はいはい。」
「今日・・・空いてるか?」
それを聞いて、私は「は?」と聞き返してしまった。(そんなにそれを言うことは、勇気が要るモノなのだろうか?)
「いや、さっき何か奢ってあげるって言ったの、忘れてないかい?暇だよ。その星飾ったし。」
「そうか!!じゃぁ、行くかナマエ!!」
私の言葉を聞いた彼は心底嬉しそうな顔をさせて、私の腕を引っ張った。
「ちょ、まっ!どこ行くって言うのさ!?」
「決まってんだろぉ、ナマエ!!俺様の家でやってるバザーにだ!」
そう私に叫んだ後、彼はケセセセセと彼特有の笑い声をさせながら、私の家を飛び出した。

ドイツのクリスマスマーケットは有名なだけあって、にぎやかだった。
「どーだ、ナマエ!俺様の所のバザーは?」
「うん。・・・凄く、綺麗だ。」
そう言って、私はぐるりと周りを見渡す。そこには、昼間なのにクリスマスの夜のような活気と華やかさがあった。
そんな私を見て、彼も機嫌が良くなるのが分かった。(まぁ、誉められて嬉しくない奴なんてそうそう居ないだろうしな。)
「夜もすっげぇ綺麗なんだぜ!見てくだろ?」
と聞かれれば、私も頷くしかない。と言うか、言われなくても夜まで居るつもりだった。
「あ、そうだ。食べ歩きでもしながら、見て回ろうか。」
奢るって言う約束、忘れないうちに何か奢らせてよ。

食べ歩きをしている間に、日はどんどん暮れていって。いつの間にか、周りは暗くなっていた。
イルミネーションがキラキラと光り始めて、少し肌寒くなっていく。
それに気づいたのか、「ナマエ、寒いだろ!寒いよな!!何なら俺様のコート、貸してやろうか?」と言われ、私は気持ちだけでいい。と答える。
「そうすると、ギルが寒くなるでしょうが。」
あんた、私よりも寒がりなんだから。無理しなくてもいいよ。とさっきのに付け加えると、ちょっと沈んでいた彼はにやりと笑う。
「じゃぁ、こうしようぜ。ちなみに反対意見は認めねぇ。」
そう言って、彼は私の後ろに回り込んでぎゅっと抱きしめてきた。(ドキッとなんか・・・してない、断じて!!)
近くではイルミネーションが光っていて、周りには【イルミネーションを見ているカップル】に見えるに違いない。
「ねぇ、ギル。ちょーっと離れ「い、や、だ。」こ、恋人に見られたら、あんた困るでしょ!!」
それを聞いて、彼はキョトンとする。そして、離れようとする私の身体をさっきよりも力強く抱きしめる。
「俺は、周りの奴らに見せつけてやりてぇんだよ。そう言う風に。」
明日はどうせ、他の奴らと過ごすんだろ?
そう言って私の額に冷たい唇を贈るのは、多分私だけのサンタクロース。


この日だけでも

                                   
自分がされたことが信じられなくてボーっとしていると、額にさっきとは違う冷たさが感じられた。
「あーナマエ、目ぇ瞑れ、んで動くんじゃねぇ。」
そう言われたので動かないで居ると、首が少し重くなった。
不思議に思って見ると、ギルやルートが付けているような十字架のペンダントだった。
「さっすが俺様!センス良すぎるぜー。明日付けてこいよ?」
ぐるりと回転させられて、そう言われる。
その言葉に私は、素直に頷くしかなかった。


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