ショート | ナノ
薔薇の冠と優しい貴方


「ナマエちゃんv」
「何です?朝から騒々しい。」
窓の外から話しかけてくる男のためにベッドの横の窓を開ける。
窓から吹き抜けた風は、眠気をさますには少し物足りないようなぬるい風。
「ほら、これ見てよv」
手を差し出したのに、頭上に何かを置かれた。
「何なの、一体・・・」
頭に手をやると柔らかい花びらの感触。
手に取った花冠は赤く、ベッドの上に数枚の花弁が散らばる。
「朝から気障ね、でもありがとう。」
普段は花束で持ってくるフランシスが花冠というのは少し珍しい。
「それで、どうしたの?これ。」
「いや、今日は君と俺が初めて会った日だったな、と思ったわけ。」
「流石、フランシス。記念日ごとには敏感よね。」
そう言えば去年は花束とケーキだった気がする。
「ごめん、フランシス。私、今年も忘れてたみたい。」
「うん、だろうと思いましたよ、お兄さんは。」
そう言いながらも、彼は笑うのだ。一切私を責めることはしない。
「花冠なのには何か理由が?」
「んー、特には。」
そう言う彼の目は一瞬空を泳いだ。
きっと、何かある。そう思ったが、ここで聞いても絶対に答えてくれない。
「とりあえず、玄関開けるから。部屋入ってきなよ。」
「そうさせてもらうわ。」

ベッドに腰掛けた状態の私と、イスに腰掛けた彼。
さっきの花冠は机の上に置いておいた。
「ナマエ、俺のサプライズは気に入ってくれた?」
「ええ、綺麗。貴方と同じで美しいものは好きだもの。」
「なら良かった。俺も選んだ甲斐があったってものだよv」
彼は今日は無駄に接触をしてこない。その理由を彼の手に見つけた。
「ねぇ、フランシス。その薔薇ってもしかして、貴方の家の薔薇じゃない?」
彼の家の近くの薔薇園。彼の好敵手と言える相手に負けぬようにと作った薔薇の園。
そう言うと彼は少し、笑った。
「ナマエは、目が鋭いんだね。」
「だって、いつもの花屋で買ったなら貴方、抱えきれない程持ってくるでしょ。」
「そう、だね。」
「それに、貴方の手。棘抜きした所為で、傷だらけだもの。」
彼はその言葉にやはり笑った。
私には、敵わないと言わんばかりに満面の笑みを顔に浮かべて。
「今年、やっと綺麗に咲く様になったんだ。それに、君に一番にプレゼントしたかった。」
その言葉だけで、きっと、私は生きていける。
たとえ、何年も経って、私という国の存在が無くなったとしても。
「フランシス・・・っ」
衝動的に、彼に抱きついた。
「今までの、どんな、貴方の言葉より、嬉しいわ。それ。」
「喜んで頂けて、何よりだよ。マドモアゼル?」
その言葉がフランシスの照れ隠しだと知るのも、やはり長く彼の傍にいるからだろう。
「それで?花冠の理由を聞きたいんだけど。」
「え、アレ?うーん、君に似合いそうな〜じゃ駄目?」
軽く小首を傾げる動作も彼にとっては、彼を魅せるひとつであると知っている。
「あー、ナマエにはごまかしても無駄だよねぇ。」
こっそり彼が二人きりの部屋で無意味な耳打ちをした。
“思ったより花束にするには花も小振りで量が足りなかったから”の台詞には笑わせていただきましたとも。
ええ、心の中で。


薔薇の冠と優しい貴方


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