ショート | ナノ
フルーツタルトは一途に片思い


「・・・ん。」
フランシスの所に行く途中、目に付いたのはケーキ屋さん。
ガラス越しに見えるケーキの数々に、目を奪われてしまう。
ショートケーキ等の色とりどりのケーキややフランスの伝統的なパイ等が並んでいる棚を、ただじーっと見る。
こういうのをさらりと作ってしまう料理人・お菓子職人の方は凄いな・・・と改めて感心してしまう。

「何、ナマエ。何か食べたいの?」
「・・・あ。やぁ、フランシス。どうしたのこんな所で。」
これから会う人にこんな所で会うとは思わなかった。もしかして約束の時間が過ぎていたのだろうか?
「あ、ナマエが悪いワケじゃないよ。俺が早くナマエに会いたかっただけ。」
「何、そんなに顔に出てた?」
「うーん、俺が分かるくらいには?」
「そっか。」
そう言って私は彼の方へときちんと向き直す。そう言えば何をしにこの人の所に来たんだっけか。
「・・・。」
「ナマエ?」
「・・・あぁ、お茶のみに来たんだった。」
「うん?・・・あぁ、そうだね。」
一応ケーキも用意してあるんだ。家に着いたら早速食べようか。と言って手を差し出した彼を見て、ポツリと呟いた。
「ケーキ・・・か。ねぇ、何のケーキ?」
「今日は、お兄さん特製のフルーツタルトだよ。」
「フルーツ、タルト・・・。」
どうやらすぐに食べたい気持ちが目に出ていたらしい、フランシスは小さく笑いながら「行こうか。」と言って私の手を引いた。

「んー!やっぱり美味しい!!」
「ナマエにそこまで言われるなら、お兄さん、作った甲斐があるってもんだ。」
これでもかと言うぐらいふんだんに乗った果物に、タルト生地。不味いわけがない。
そう言い返すと、「ナマエはフルーツタルトみたいだね。」と、変なことを言われる。
「・・・なんで?」
「ナマエは色んな魅力を持ってるから。」
「そんなに持っていないと思うけど・・・どちらかというと、フランシスにピッタリだと思う。」
「え、何で?」
「だって色んなフルーツ持っているんだよ、選り取り見取り。選び放題。」
そう言って上に乗っていた1つの苺を口に入れる。「うん、おいしい。
「あー、ナマエはそう言う解釈をしちゃうんだ。」
「でも合ってるでしょ。色々揃えてて、一途じゃないところ。」
「何とも言えません・・・。」
「ほら。」
凹んでみせる彼を見て笑えば、でもね。と笑い声にストップをかける。見れば少し真面目な顔をした彼がこちらを向いている。
「フルーツタルトは、本命のフルーツには手が出せないみたいでね。」
案外フルーツタルトって純情派なんだよ。と言って、目の前の彼は私に小さく笑いかけた。

「でもさ、それって悪く言えばヘタレって事でしょ?」
「それを言ったら、身も蓋もないね。」
俺はそう呟いて苦笑いをナマエに送る。
なかなかこの気持ちには気付いて貰えないらしい。


フルーツタルトは一途に片思い


まぁ、完璧すぎるよりも私はそっちの方が好きだけどね。と小さく呟けば、「ナマエ、何か言った?」と聞かれる。
それに小さく首を横に振って、目の前のタルトを口の中へと丁寧に運ぶ。
さっき言ったことが本当なら、この人に愛されるその人は、とても幸せだろうに。
他の人を好きになれたらどんなに楽だろう。そう考えて心の中で小さく溜息を付いた。
そして気持ちが外に出ないように、横に置いてある紅茶をゆっくりと飲んでいった。


なかなかこの気持ちを彼は分かってくれないらしい。


title by 21グラムの世界

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