嵐は混沌を友にやってくる 信じられないことに『緋き羽を纏いし高貴なる存在』という、いわゆる吸血鬼がここにはいるそうで。 更に信じられないのだけれど、この人たちはそれらを倒すお仕事をしているそうだ。 そして今回、その吸血鬼にかかわる魔物を解き放ってしまったので、封印したいという事らしい。 なんていうおとぎ話なんだと思いながら、彼らに向かって理解したというように頷いた。 「・・・成程、ラインヘルツさんたちの事情はだいたい分かったんですが。」 これって私、聞いて良かったんですか?と聞いてみたら案の定、しまった。という顔をして、顔を見合わせていた。 「うわあぁああっぁあ・・・スティーブンさんに殺される・・・!!!」 「貴女に迷惑がこないように黙っていたのだが・・・!!」 暫く顔を見合わせていたかと思えば、そう言って急に慌てだす2人。(ただし慌てるベクトルはどうやら違うみたいだけど。) うすうす感じていたけれど、この2人、あまり隠し事というのが出来ない性質なんじゃないだろうか。 「でも!ある意味概要的な事だし「レオ君、たぶんその概要も喋っちゃいけない事だったと思うよ。」 「し、しかし概要ならば具体的なことまで分からな「ごめんなさい、ラインヘルツさん。がっつり今回の事件の全貌を聞いてしまった気がします。」 結構ぺらぺら話してましたよね。とか突っ込みながら、目の前でわたわたしている2人を横目に立ち上がる。 そして廊下に続く扉を静かに開けて、外に誰もいないことを確認する。・・・よし、誰もいないな。 そのことを確認した後、くるりと2人の方を向いた。 「分かりました。私は何も聞いてないことにします。」 「え?」 「外を今確認しましたけど、誰もいないようですし。3人の秘密ってことで。」 そう言うと、2人は分かりやすいぐらいほっとした表情をして頷いてくれた。 とてもありがたいことだけれど、素直すぎて逆にこちらが不安になってしまったのは仕方がないことだと思う。 そんな事件?があってから、数日後。あっという間に嵐がこちらに到達してしまったことを、レオ君の口から告げられた。 「復元出来そうですか?って、聞くまでもないっすよね。」 「終わってますよ。お手伝いしててそれは知ってるでしょう。」 「何というか、死に物狂いでやりましたもんね。」 そう言って復元した棺を見るレオ君に、私は苦笑いで返した。 「でも棺の方って他のより砕けてなかったから、こんなに短時間で終わったんですよ?」 「まあそうなんすけど。やっぱり僕にはこれ、どうしても棺には見えなくて。」 「うん、分かるよ。私もにもそう見えない。」 棺のような大きさでそんな形になりそうだったのは、生地の分厚い方のもので。(完成したそれは縦長な箱の形状になってしまったけれど。) 正直棺かな、これ。だなんて思ってしまい、実は前にレオ君と一緒に他のも少し直してみたことがある。 しかし生地の薄い方は高さ3センチほどの小さな土台になりそうだったし、ガラスでできたのは丸みを帯びた形になってしまった。 なので結局ラインヘルツさんやスターフェイズさんに相談した結果、とりあえず棺っぽいのはこれだからと、優先的に復元したのだ。 ただはっきり言ってしまうと、棺というより壺を入れる箱にしか見えないというのが、レオ君との見解であるのだが。 「それよりも封印に失敗したら、これまでのが水の泡になるんですからね?戦うことになるかもですから、気をつけて下さいよ。」 「あ、それはオッケーっす。こっちにはクラウスさんやスティーブンさん、ツェッドさん・・・にもう一人とかがいるんで大丈夫ですよ。」 「レオ君。最後の一人もしっかり名前言ってあげて。」 知っているのは始めの方に言った2人しかだけなので何とも言えないが。 それだけ戦える人がいるということが分かったので、こちらも安心して、残りの作業に取り組むことが出来そうだ。 そう思いながら未だ机の上に置かれている欠片を手に取ると、今度はレオ君に苦笑されてしまった。 「ナマエさん。やっぱり全部復元するんですね。」 「うん。直してあげれるなら、出来る限りのことはしたいし。」 こちらに対してかかってしまう時間分はタダ働きになるけどね。なんて言いながら、そのガラスの欠片を光にすかす。 そうすると机の上で見るよりもより鮮明に、そのガラスに描かれている陣の一部が見えた。 「・・・ほら、もしこっちが棺だったらさ、多少でも復元してあった方が良いでしょ?」 「ただその場合、嵐とか魔物が復元の間野放しになっちゃいませんか!?」 「そうなったら、倒す方向で行きましょう。頑張ってください。」 「うわ、そんな難易度の高そうな事を簡単に言わないでくださいよ・・・って、電話だ。」 建前は棺じゃなかった時の保険だけれど、本音としては自分の帰り方のヒントになるのではと思っているから復元したいのだ。 ただそんなことをレオ君に言えるはずもなく、何となく申し訳ない気持ちを抱えながら、そんな軽口を言い合っていると、鳴り響く音。 周りを見渡しても電話らしきものは無いことに違和感を感じながら、レオ君に電話出れば?と促した。 「じゃあ早速失礼して。・・・はい、クラウスさん。何でした?」 「え、何それ凄い。」 彼を見れば、ポケットから取り出した板に話しかけている。 こちらの電話はすごい発展してるんだなと感じながら、彼が話し終わるのを待っていた。 「どうやら見つかったみたいですよ。その嵐の原因。」 「なら今から行く感じですか。」 「はい。あ、ナマエさんはここで待機しててください。外は危険ですし。」 「これを何とかしたいので、どこも行きませんよ。」 「そうでしたね。」 そういって苦笑する彼に、私は「レオ君こそ気をつけて。」と言葉をかける。 正直外をあまり歩いていないので、散策したい気がする。(むしろ最近はここにずっと引きこもっている気がする) だが、危ないところに進んで行きたくないので、安全になってからこのあたりの案内を頼もう。だなんて思いながら、彼の背中を見送る。 「何かあったら、ギルベルトさんって人がいるので!その人に聞いてくださいね。」 「何かって言われても・・・そうそう起こらないと思うけどなあ。」 「念のためってやつですよ。ここじゃあ何が起こっても可笑しくないんで。」 「あ、そっか。」 レオ君のその言葉を聞いて、私は彼の服を掴んで引き留める。 「え、ナマエさん・・・?」ときょとんとしてこちらを見ている(ような気がする)彼に、服を握りしめている手をさらに強くする。 「これが終わったら、レオ君に言いたいことがありまして。」 何が起こってもおかしくないというこの場所なら、私のような境遇の人がいるのかもしれない。 それならば隠すのではなく、はっきり言った方が良い。 そう思って彼に言ったのだけれど。 「・・・それ、死亡フラグじゃないっすか!い、今じゃダメで!?」 「でも急いで行かないといけないんですよね?」 「ああ!そうだった!!じ、じゃあ僕行きますけど、命を大事にしてくださいよ!?」 「あ、はい。」 私はそんなに自分の命を粗末にしそうに見えるんだろうか。 そう突っ込みたかったけれど、これ以上彼を引き留めるわけにもいかず。 ほんのり赤らんだ顔を真っ青にして走り始めた彼に、今度こそ別れを告げるようにその背中に向けて手を振った。 ナマエさんと別れてから、僕はクラウスさんの言われた場所に急いでやってきた。 「す・・・ません、遅れ、ました。」 そのお蔭と言っては何だが、息が切れてしまい、何とも自分のことながら情けない声で謝る羽目になってしまった。 のだけれど、周りのみんなは(特にザップさん)が何も言わないことに違和感を覚える。 僕の目の前に彼らの背中が見えているのに、だ。 戦闘に聞こえるような音も聞こえないし、もしかして例の魔物に逃げられてしまったのではないか。 だなんて思ったぐらいに、ようやくクラウスさんの声が耳に響いてきた。 「レオ君、君にはあれがどう見える?」 「あれって、例の魔物のことですよね・・・!?」 そう言いながらクラウスさんの背後から周りを見た瞬間、思わず僕は目を見開いてしまった。 「・・・何が起こってるんすか、これ。」 見えたのは前にも見たことがある真っ赤な羽のオーラを出している人と、それにも負けないくらい真っ黒なオーラを持った人。 そしてその背後にはありえない形をしたビル、棘が生えているような道路が見えて。 その風景に、僕は恐怖を覚えた。 back |