異世界と等価交換 | ナノ


重なる世界の境界線


ずるい人間だな、と我ながら思ったのだけれど。
彼だったら話してくれるんじゃないかと思い、ずっと聞いてみたかったこと尋ねてみたのだ。(少しスターフェイズさんには聞きにくかったので。)
そうしたらまさか『詳しいことは言えないが・・・それが世界を救うために必要なのだ。』だなんて言葉が返ってくるなんて思わないじゃないか。
ラインヘルツさんに聞き返してしまうぐらい、その言葉は私にとって予想外の答えだった。


「世界を、ですか。」

そう言ってサンドイッチを食べる手を止めて、こちらを見る彼女。
その様子を見て、急にそんなことを言われても信じられないだろうと思いながらも、その事実に私は肯定の意を込めて頷いた。

「信じてもらえないかもしれないが、それが事実なのだ。」
「これが世界を救うだなんて、実感が全然湧きませんけど・・・。」

「でも、そうだとするなら、嬉しい限りですよね。」と答えた彼女に、こちらが驚いてしまう。

「・・・嬉しい?」
「ほらこういうのって、人によっては要らないものだったり、使えないものと思われているので。」

まあ、その考え方は分からなくもないですけど。と言いながら、彼女は目の前の欠片をなでる。

「でもそれが今の時代の世界を救う役にたてるなんて、凄い素敵な事じゃないですか。」
「・・・。」
「技術は大衆の為にあれ、ってね。・・・よし。食べたら、もうひと頑張りしましょうかー!!」

サンドイッチを頬張った後、そう言って背伸びをする。
私はそれを見て、やはりこの人を、レオ君を信じてよかったと思いながら、食後の紅茶を取りに行くことにした。


「それにしても、見れば見るほど似てるなぁ・・・。」
「ん、何がですか?」

帰ってきたレオ君とラインヘルツさんと一緒に紅茶を飲みながら(何て優雅なんだ!)、ふと思い出した感想を口に述べる。

「発掘された生地の薄い方がね。私が作業してた遺跡によく出土するものと似てたから。」
「僕にはどれも一緒のような気がしますけどね。」
「それが違うんだよ。くっ付けてみなければ分からないけど、模様の形が似てるんだよね。」
「へー、例えばこの魔法陣みたいな感じのっすか?」
「いや、それじゃなくって・・・え、魔法陣?」

そう言ってレオ君が指さす先にはガラスの欠片。
分けているときは、ガラスが作れるほどの技術があったんだな位にしか思っていなかったのだけれど。
しかしそのガラスにうっすら描かれていたものを確認した瞬間、目の前が真っ暗になるような心地がした。

「・・・これって。」
「いや、分けてる時からこれなんだろーな。と思ってたんですけど、これ知ってるんすか?」
「知ってるも何も・・・レオ君。」
「っ、あ!はい!!」
「お手柄です。少し私個人としては複雑ですけど。」

そう言いながら、薄く掠れてしまったそれをもう一度見る。
まさかこんな所で、私の元いたところと関連するものが出てくるなんて思わなかったな。なんて思いながら。


「もしかして私、過去の人間だったりする?」
「え、どうしたんすか急に。」
「どうかしたのかね。」

小さくつぶやいたつもりだったのだけれど、それは近くにいた2人に思い切り聞こえていたらしく。
不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。

「いえ、何でもないです。はい。」
「そう言うが、顔色が少し悪い。今日はこのあたりにした方が良いのでは?」
「うわ、ほんとだ。ナマエさん、大丈夫っすか?」
「大丈夫です。ただお二人に聞きたいのですけど、こういう模様、他のところで見た事あります?」

そう言って紙に簡単な錬成陣を書けば、レオ君は首をひねってくれたけれど、ラインヘルツさんは私にとって最悪な言葉を紡いだ。

「あまり詳しくないが、中世に居たといわれる魔術師か錬金術師あたりが書いていたのと似ている気がする。」
「あーまじですか。」
「どうしたのかね?」

その言葉にくらりとしてしまう。そして困ったことになったなと、改めて実感してしまう。
未来に飛んできてしまうだなんて、物語の中の人間だけが起こるものだと思っていたのだけれど。

「・・・まじですかー。」

過去への帰り方なんて、どう探せばいいんだ。
そう思いながら、未だかつてない大旅行に頭を抱えてしまいそうになった。


「そう言えば魔物って言ってましたけど、具体的にはどういった魔物なんで?」

実際に聞きたかったというのもあるけれど、話の流れを変えたいが為にそう口を開いてみれば、2人はすぐに答えてくれた。

「確か『異世界の魔物』とか言ってましたよね、クラウスさん。」
「ああ。そしてその魔物は、計り知れない力と知恵を持っていたらしい。」
「え、そんなチート設定な魔物だなんて聞いてないんすけど。」
「む。言ってなかったかね?」
「聞いてないですって、それ!!」

他にもその魔物は悪さをしたせいで棺に封じ込められていて、いつも外に出たがっているとか、そのために持ち主の願い事をかなえてくれるらしいこと。
また外に出したら二度とその魔物に出逢うことができないことなど、私にその魔物についていろいろ話してくれた。
それで自分が過去の人間だという決定打とか、魔物の正体を特定するということが出来たらいいなと思っていたのだが、そんなに上手くはいかないようだ。
自分が居た所の事を思い出してみるが、どうも思い当たる生き物はいないし、そんな伝承も聞いたことが無い。
元の所に帰る手がかりは無いみたいだなと思い、軽く溜息をつくと、それに気が付いたレオ君がこちらに話題を振ってきた。

「えっと、それで何か分かったんすか?」
「うーん、謎は深まっていくばかりだよ。何だろうね異世界の魔物って。」
「まぁそうだよなぁー。それがすぐに分かったら、僕らだってこんなに苦労しないし。」
「確かにその通り、だが。とりあえずこの棺が復元出来れば、その魔物は封印できるはずだ。」
「あー大変ですねー。でもそんなチートな魔物だっていうなら吸血鬼とかかもしれないですね・・・って、え。それってどういうことですか。」

2人の言葉を聴きながら、そう言えば今発掘していたところに吸血鬼が居たっていう伝承あったな。と思って口を開いたのだけれど。
よくよく彼らの言葉を思い返してみれば、封印とか何だかファンタジーな言葉が出ていた気がする。
どういうことなんだと思い、そう聞き返すと。

「! 吸血鬼とはいったい!?」

逆にすごい形相でこちらに聞き返されてしまった。なんでそんなに吸血鬼に食いついたのかは良く分からないが、言ってはいけない言葉だったのだろうか。
・・・さっきの言葉はあくまでも仮定の話ですからね。だなんて言えない雰囲気に、私はどうしたもんかと頬を掻いた。


「貴女が発掘していた所に、昔吸血鬼が居たという伝承があった、と。」
「はい。それでいろいろあってここに来ました。」
「ヘルサレムズ・ロットは何でもありな所だから、それを確かめに来たってところでしょうかね。」
「ははは・・・。」

結局、話を有耶無耶に出来そうもなかったので、私が吸血鬼が居たといわれる場所を探索していたことを軽く話すことになってしまった。
でも何だか納得してくれているので、結果オーライ、だと思いたい。(頭がおかしい奴だなんて思われなくて良かった。)
それに私の話を聞いている彼らを見る感じだと、どうやら吸血鬼が実際に存在しているようだし・・・ってあれ。
もしかして私の方が未来の人間なのかな。だなんてふと思ったことを口に出してしまったが、真剣な表情で考え込んでしまった彼らには聞こえなかったようだ。



(ちなみにそれはどんな伝承だったのだろうか。)
(よくあるような話ですよ?国の偉い人が命を伸ばしてもらう代わりに大事なものと交換したっていう話です。大事なものが何かはまだ分かってませんが。)
(聞いてると本当にありがちな話だけど・・・命を伸ばしてもらったその人ってどうなったんすか。)
(150年ぐらい国を上手く治めたらしいですが、彼の国の存在を恐れた他の国に吸血鬼の国と言われ、攻め落とされて殺されてしまったと。)
(それで吸血鬼。)
(はい。それが緋き翼を持った領主のお話の概要でして。)
(!? 今、何と言ったかね・・・?)
(あれ、またなにか言ってはいけない言葉を言ってしまった感じですか?)

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