思い出すのは貴方の顔 「ザップさん・・・テレビ知らない人間っていると思います?」 「あ?テレビなんてどこにでもあるだろ。知らない奴なんざいねーよ、ばーか。」 「最後のバカは余計!・・・ってそうっすよねー。やっぱ、普通に考えたら居ないよなぁ。」 「レオナルド君。なにかあったのかね。」 そうクラウスさんに訊かれたけれど、僕はこの違和感をすぐ言葉に出すことが出来ず。 ライブラに置いてあるテレビを見ながら、今日あったことを振り返ってみる。 『びる、てれび・・・テレビっていうんですか、あれ。』 その後も泊まる宿を探しているときに、ぱらぱらと出てきた質問。 アスファルトや信号のことだなんて、今の時代、子供でも知っている事なのに、だ。 無邪気に訊いてきたナマエさんに、どうしても違和感があるのだ。そのことをどう説明したらいいのかわからないけれど、とりあえず口を開く。 「えっと、なんだか・・・僕らの当たり前を知らなさすぎる人に出逢いまして。」 「? その人は、たとえば何を知らなかったのかね?」 「えーっと・・・テレビや信号とか。・・・今思うとシャー芯やビルの事も解ってなかったみたいでした。」 「それって、きっとあれだろ。天然を装ってると見た。それかなんちゃら星の住人だろ。」 「あんたはもう、黙ってろ!ナマエさんはそんな人じゃないですって!」 「へー、ナマエっていうのか。そいつ。」と女性と分かった瞬間に、にやにや笑うこの人をどうにかして欲しい。 それとは対照的に、「続けてくれるかい。」と話すクラウスさんに、気を取り直して今日の出来事を話しはじめた。 「・・・何というか、その。少し不思議な話だな。」 「というかそれ、お前の夢の中の出来事なんじゃねぇのか。」 とりあえず後ろのセリフは置いておいて。確かにクラウスさんの言う通り(だけど『少し』ではないと思うが)、不思議な話だ。 そしてふと、ベンチで見せてもらったお金のことを思い出す。 「そう言えば、クラウスさん。センズってお金、知ってますか?」 「センズ?・・・・・・いや、無いな。」 一応確認のためにパソコンで調べてもらったが、センズなんてお金は無くて。 「あー、わけが分からなくなってきた。」 あまり整っていない髪をぐしゃぐしゃにしながら考えてみても、クラウスさんが分からないのだから、僕なんかにそんな事が分かるはずもない。 机に突っ伏して、うあー。と声を出していると、ザップさんの声が聞こえた。 「明日、そいつと会う約束をしてるんだろ?その時に聞いてみればいいじゃねぇか。」 「いや、あんたはそう簡単に言いますけどね!実際上手くはぐらかされるに決まってるじゃないっすか。」 「では、レオ君。私が行って話を聞いて来よう。」 「いやいやいや!知り合って間もない人に、クラウスさんを紹介なんてできませんて!」 クラウスさんは全く悪気が無くそう言っているんでしょうけれど、正直、そんな事をされたら、事態が更に変な方向に行きそうで怖い。 そう思いながら話していると、ドアがガチャリと開く音がして。 そっちの方を見てみると、ギルベルトさんが肩幅ぐらいの大きさの箱を持っているのが見えた。 「ギルベルトさん、それ、何ですか?」 「外界から送られてきたものです。棺・・・だったそうですよ。」 「うわぁ、バラバラに砕けちゃってますね。」 蓋が無かったので、上から覗き込んでみれば、博物館とかに置いてありそうな遺跡の欠片が沢山。 棺?とか言っていたけれど、いまいち立体の想像がしにくいくらい、ばらばらになっている。 「もともとここに、厄介な魔物が封印されていたようです。」 「え、じゃあ。今はその魔物倒されて、存在してないってことで良いんですよね?」 だってそうじゃないと、この棺に封印されていた魔物っていうのは・・・。 「いえ、残念ながら。」 「うわあ。」 未だ元気に活動してるんかい。と心の中で言いながら、それってやばいことだよな?とも考える。 「む、届いたのだな。」 「クラウスさん。その魔物ってやばい奴なんじゃないんですか。」 「ああ、かなり危険な存在だ。もうすでに影響が出始めている。」 「え。」 そうクラウスさんが言うと、ギルベルトさんがタイミングよくテレビのチャンネルを変える。 そこに映し出されていたのは、異常気象を伝えるニュースで、ちょうど大きな嵐のリポートをしていた。 「もしかして、この異常気象ってまさか・・・。」 「ああ、そのまさかだ。その魔物が嵐を起こしているらしい。」 「へーぇ?それで、旦那。その魔物って何者なんすか。」 「・・・それは分からない。話によると、血界の眷属と何らかのつながりを持っていた異世界の魔物だと聞いている。」 「なんかだんだんファンタジーの世界になってきたな・・・。」 そう呟けば、「お前、吸血鬼がいるって自体、ファンタジーみたいなもんだろ。」とザップさんに突っ込まれてしまったけれど。 それをスル―して、また同じような箱が持ってこられているのを見ながら、ふと疑問に思ったことを口に出す。 「えっと、で。なんでこれがここに運ばれてきたんですか?」 「レオ、お前って本っっ当に馬鹿だな。どうせここに長老級の吸血鬼とか他諸々が大勢いるから、ここに来るんじゃねぇかっていう推測立ててんだろうよ。」 「流石だ、ザップ。それもある。」 「え、旦那。それ『も』って?」 「これを送られた時、向こう方から直してほしい、とも言われたのだ。」 「直すって・・・これを?」 「うむ。直してもう一度封印してほしいそうだ。」 そう言うのを聞きながら箱の中をもう一度覗き込めば、さっきと同じように、立体だったのが分からないくらいにばらけた欠片。 まぁたまに、立体っぽくなっているやつもあるけれど、そんなのは数を数えるくらいしかない。 横でザップさんが「うげぇ。」と声を上げているのは、分からんでもない。これを組み立てる人はとても災難だな、と思ってしまうほどには、酷い。 「・・・ちなみに何で壊れたんすか。大事に保管してあるんじゃないんですか、そーゆーのって普通。」 「発掘してる最中だったそうですよ。その時にどうやら吸血鬼が現れて壊されてしまったとか。」 「うわ、発掘される機会を虎視眈々と狙ってたとか。じゃあ、発掘してた人は皆・・・。」 「ええ、屍喰らいになっていたそうでして。皆お亡くなりになりました。」 えげつないぞ、吸血鬼。 ギルベルトさんと話しながらそう思いながら、これ、誰が直すんだろう。という疑問が湧き上がってきて、クラウスさんに尋ねてみる。 「それで、クラウスさん。これ、誰が直すんですか?」 「?君に頼もうと思っていたのだが・・・。」 「え、うそぉ!?」 ウソでしょう。クラウスさん、嘘だと言って下さいよ!と言ってみるも、 「その眼でオーラが見れるのならやれるのではないか・・・と先方に言われたので、引き受けたのだ。」と言われてしまった。 知ってますか、クラウスさん。それってきっと面倒なものを押し付けられただけですよ、きっと。 確かに俺は、ツェッドさんのオーラを見て、その残滓を追った事ありますけど。でも、だからと言って。 「すいません、流石にこれは無理です。」 「・・・む、そうか・・・・・・。」 そう言うと、明らかにしょんぼりしてしまったクラウスさんと、さっきから馬鹿笑いをしているザップさん。 そんな二人を見ていると、ザップさんに対しての怒りだけがかなり上がっていくのは、何故なんだろうか。 ザップさんだからなんだろうか、うん、そうに違いない。 とりあえず僕の代わりに、誰かあいつをどうにかしてください。お願いします。 その後チェインさんが登場し、やっとザップさんの馬鹿笑いが止まったところで、思い出したかのようにクラウスさんが呟いた。 「そうか・・・ならば、復元できる技術者を探さなければいけないな。」 「復元するってことは、考古学系ですよね・・・って、あ。」 自分のセリフで、あの人の言葉が脳内によぎった。 「僕、知ってますよ。そういうの詳しそうな人。」 その人で良ければ、俺、一回頼んでみますよ。と軽い気持ちで提案してみれば、「君が言うならば、信用に値する人物なのだろう。お願いできるかな。」と返されてしまった。 ・・・ごめんなさい、ナマエさん。何だかあなたに面倒事が来てしまいそうな流れになっちゃいました。 (相手方にも君にも迷惑をかけて申し訳ない。・・・それで、なのだが。私もその方にご挨拶したいのだが、良いかな。) (いや、大丈夫ですって!!できます!俺一人で!!) back |