異世界と等価交換 | ナノ


金は天下の回りもの


優しい方にお昼ご飯を奢ってもらい、アメストリスに帰るという目標に向かって頑張ることにしたのだけれど。
そう簡単に帰れる・・・なんてことは出来ないようでして。

「『一夜にして構築された霧の都市、ヘルサレムズ・ロット』・・・かぁ。」

凝り固まった目の周りをマッサージするようにもみほぐしながら、そう呟いた。

ご飯を奢ってもらった後、近くにあった図書館に数時間こもって得た情報によると。
ここは元々普通の街だったようなのだが、ある日を境にして異界とつながってしまった町らしい。
そしてその周りはおろか、世界規模で見ても『アメストリス』という国は見当たらないのだ。

「もしかして、こっちで言う異界側に自分の世界があるって事?・・・・・・あー、もう!分からん!!」

そう叫んで頭を抱えた後、ふと、我にかえって辺りをそっと伺ってみる。
忘れてたけど・・・そういえばここ、図書館だった。


とりあえず2、3日で帰れるところじゃないと分かったけれど、一か八かで異界とやらに飛び込む勇気もない。(帰れなくなったら怖い。)
もう少しここに滞在して情報を集めようにも、無一文。
図書館から飛び出して、周りのお店に仕事があるか訊いてみたけれど、こちらの個人情報を持っていない私は圧倒的不利。
そんな八方ふさがりな状態の自分は、もう何かを売るいう選択肢しか思いつかなかった。のだけれど。

「そんなお金になりそうなものなんて持ってないしなー。」

鞄の中身を思い出しても、全くお金になりそうなものがない。
・・・こんなことなら、国家錬金術師の勧誘を蹴らずに、銀時計貰っとけばよかった、だなんて悪い考えがよぎってしまうほどには。
だって銀を加工してやれば、高く売ること出来たかもしれないのに・・・って、ちょっと待てよ。アレって本当に銀でできてるんだっけ?
街をぶらぶら歩きながらそんな事を考えていたのだけれど、ふと、辺りが暗くなっていることに気がついた。

「って違うぞ、ナマエ。どうやってお金を作るかを考えるんだ。・・・とりあえず、今日の宿代ぐらいは確保したい!!」

そう自分に言い聞かせて、もう一度どうするのか考え始める。
晩ご飯はもうパンであきらめるとしても、ちゃんとしたベットで寝たいと思うのは仕方のないことだと思う。

「あーもう、本当にどうするかな。最悪、その辺の石で宝石作っちゃうかなー。」

あっはっは。ともう自棄になって言った言葉に、私は目を開いた。

「宝石・・・!!いや、でも、貴金属作るの禁止だし・・・。ここそんな法律ないよなぁ・・・いや、だけど。」
「なぁ、金貸してくんねぇ?」
「・・・へ?」

路地裏へ続く道のわきに転がっていた小石を拾って、この位の大きさだったら・・・なんてことをぶちぶちと考えていると、頭上から声がかかる。
この土地でお金を貸すような知人はいないはずなんだけど。なんて思いながら上を見上げると、見たことのない顔、顔、顔。
少し言い方が悪いけれど、人間の顔つきをしていないので、この人たちは異界と呼ばれる住人の方なんだろう。

「ってことは、今、鏡見たら私もこういう風になってるのかな・・・。うん、ちょっと覚悟しとこう。」
「何をグダグダ言ってんだ?ただ俺達にちょーっと金を貸してくれれば良いんだよ。」
「いえ、お金持ってなくって困ってるのは私の方なんで・・・あ。」
「あ?何じろじろ見てんだよ。」

そんなことより、金を出せ。と、カツアゲのセリフを聞き流しながら、見つめる先は今喋っている人の首元。
いつもだったら、「いつ逃げ出そうかな」とか「それなのに、趣味の悪い金の鎖をじゃらじゃらつけてるなー。」で終わるはずだったろうに。

ただ今回は、いつもと違う。

「あの、その趣味の良いアクセサリーって、金ですか?」
「いや、兄貴によると金メッキらしいぜ。結構安く売られてたのを「おい、お前!余計な事言うんじゃねぇ!!」
「そっか、金メッキかぁ・・・。」

周りは金で覆われてるんだよね、金メッキって。と思いながら、目の前の方たちに少し同情してしまう。
本当にタイミングの悪い方って、いるんだなぁ。

「これって正当防衛になります?いや、でもその後は追剥になっちゃうし・・・。」
「口ばっかり動かしやがって!痛い目みねぇと分からねぇみたいだな!!」

そう言って目の前に向かってくるのは私の顔以上に大きい拳。
ああ、本当にかわいそうだ。

「・・・崖っぷちの人間って、何しでかすか分からないので、気を付けた方が良いですよ。」

軽く両手を叩きながら、そう呟く。そして地面に倒れている大きな人を見るに、異界の方にも痛覚はあるようだ。
痛覚のないゾンビみたいな感じではなくて、本当に良かったと思いながら、他の2人に視線を向ける。
どちらも私より図体が大きい、けど。

「欲しいものが、あるんです。」

当たらなければ怖くない。さっきの人の殴り方をみてそのことを確信した。


(ひぃぃぃいいぃ!!すみません、悪かった!!欲しいものがあるなら持ってってくれ!)
(本当にいいんですか?じゃあ早速・・・ん?)
(え、あ。)
(あれ、君もこの人たちのお仲間の方?)
(いやいや。僕はカツアゲされてた方です!!)
(あちゃー。もしかしてここ、相当治安悪い?)
(え、ここで治安がいいところなんてそうそうないっすよ。)
(まじか。)

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