散りばめたパズルピース 「そういえば彼女、なかなか面白い子だね。」 「え、ナマエさんの事ですよね?・・・どうかしたんですか。」 サブウェイのお使いから帰ってきた僕に、お礼と共にそう呟いたスティーブンさん。 やっぱり最後までナマエさんに付き添ってた方が良かったのか?と思いながらそう尋ねてみる。 「報酬は幾ら欲しいって聞いたんだけど。彼女、それを聞いてなんて言ったと思う?」 「え、そうっすね・・・3か月分の給料下さい、とかですか?」 「君は何だ、婚約指輪でも買いたいのか。」 と突っ込まれた後、「困ります、無理です、お先にどうぞ。と言われてしまったよ。」と言うスティーブンさんの言葉に、僕はぽかんとしてしまった。 「え、何でそんな答えが?」 「後で聞いてみたら、こっちの物価が分からないから、どう答えたら良いのか分からなかったらしい。」 「あぁ・・・ようはテンパっちゃった、と。」 「まぁそんな感じかな。それで、俺はドルと同じくらいに考えてくれればいいって言ったんだけど。」 あ、なんだかこの流れは嫌な予感しかしない。そう感じ取るけれど逃げることもできず、スティーブンさんの言葉を待つしかない。 「ドルの例えはあまり分かってくれなかったみたいでね。・・・彼女、どうやってここまで来たんだろうな?」 「いや、僕に聞かれてもそんな。」 とスティーブンさんに言えば、「まぁ、そうか。そうだよな。」と理解を示す言葉が出てきて、ほっとする。 が、流石はスティーブンさんと言った所か。 「あぁ、レオ。あれが完成するまで、お前は彼女の手伝いな。あと何か分かったら必ず報告すること、以上。」 「それって暗にスパイになれって事でしょ!?嫌ですよ!」 「まぁ、そうだが・・・やりたくなら別にいい。仕方ないが、お前の意見を尊重しよう。」 「わ、すみません。ありがとうございます!」 「実は彼女が敵側の人間で、今回の件が失敗したとしても、だ。君の意志の方を俺は優先しよう。」 「え、あの!」 「大丈夫だ、気にしなくていい。嵐の原因が長引いて、世界の国々が飢饉に陥ってもレオには関係ないことだしな。」 「・・・すいませんっした!やります!やらせてください!!」 そんな簡単に諦めてはくれなかった。 「あれ、どうしたのレオ君。お使い、そんなに大変だったんですか?」 「はい。何だか・・・どっと、疲れました。」 「うわ、ご愁傷様でした。午前中の私みたいになっちゃったんですね。」 「その件は本当にすみませんでした!なんか巻き込んじゃって・・・!!」 「いやー、その事はもう良いですよ。今ではありがたいと思っちゃってるんで、お相子ってことで。」 「?」 「実はスターフェイズさんと話してた時に、衣食住の話になりまして。・・・なんと!完成する間はここに住まわせてもらえることになったんです!」 しかもご飯とおやつも付くらしくって!太っ腹ですよね!なんて嬉しそうに話すナマエさん。 だけどさっきの事があるので、なんだかそのことを一緒になって素直に喜べないなー。なんて思いながら、苦笑いを返すしかなかった。 と思う一方で、悪い人には見えないんだけどな。なんて思うけれど、ライブラにいる以上、そんな感覚だけで判断するのは危険だという事なんだろうか。 「えっと、何か手伝う事あれば手伝いますけど。」 「え。お仕事大丈夫なんですか?」 「いや、なんかこっちに回されちゃいまして・・・。」 「それって私のせい、ですよね?何かすみません。」 「いやナマエさんのせいじゃないですって。」 そう言いながら、テキパキと僕が作業するであろう場所を作っていく。 そんなナマエさんを見ていると、やっぱり悪い人には見えないんだよな、だなんて思ってしまうのだった。 「それで、何かできますか?」 「えっと、じゃあ分別お願いします。」 「分別?」 「焼きの色が違うものがあるので、複数のものが壊れてしまったと思うんですよね。」 そう言って見せてくれたものを見ると、確かに色が違う。 成程、これを分けていけばいいんだな。と早速腕まくりをして作業を始める。 「でも、なんでこうも違うんでしょうね?」 「うーん、使われている土が違うんじゃないかな。しかもよく見てみると、色だけじゃなくて焼き方も作り方も違うんだよ。」 ほら、こっちのグループはこっちのよりも厚みがあるし、全体が黒っぽいでしょ?と言われて見ても、それが何なんだと思ってしまうのだけど。 「焼きムラが全体的にあるのは、まだまだ焼きの技術が進んでいないっていう事だろうから。こっちの方が年代的には古いのかも、なんて私は思ってるんだけどね。」 「へー、すげー。これだけで分かる事って、結構あるんすね。」 「よく見ると、結構わかるもんなんだよ!・・・まぁ、作られた国が違うって事も考えられるし。詳しく調べないときちんとした事言えないんだけど。」 そう言って、子どものようなキラキラした目でそう話しはじめるナマエさん。 「好きなんすね。そーいうの。」 「うん。伝記とか神話とか、昔から好きだったんだ。」 東西の賢者の話とかすごいワクワクしてさ!と言ってから、はたと止まって、こちらを見てくる。 何かあったのだろうかと思い、首を傾げて話すのを待っていると。ナマエさんは困ったように笑いながら、口を開いた。 「・・・そうか、こっちにはその話って無いんだもんね。ごめん、レオ君の解らないことを言ってましたね。」 「大丈夫っすよ。楽しそうなナマエさん見てるのも、面白いですし。」 「いや、そこは私を見るんじゃなくて、手を動かしてください。」 「はい、スミマセン。」 そう言って手を動かしながら、さっきの言葉を頭でもう一度再生する。 ・・・『こっち』って、一体どこの事なんだろう。 それはヘルサレムズ・ロットの事を言っているのか、それともアメリカの事を言っているのか。 「まさか、世界単位で違うとかないよな・・・。」 「レオ君どうかしました?」 「あ、いや!何でもないです!!」 そう言った後、僕は何もなかったかのように手を動かし始めた。 今はこれを復元することが第一優先だしな、と自分に言い聞かせた。(一瞬スティーブンさんの顔がよぎったけれど。) ふと気が付いて窓の外を見てみれば、真っ暗で。(もともと外は薄ぼんやりしているけれど。) 時計を探して時間を確認すると、もうあれから5時間くらいたっていた。 「あー・・・どうりでお腹が空くはずだ。」 もう晩御飯の時間だからか、この部屋にも美味しいにおいが充満しており、さらに空腹感が増した気がする。 そのことに苦笑いをしつつ、どうしたもんかな。と独り言を呟いて、休憩用としておいてあるソファに体を沈める。 あ、やばいぐらいフカフカだ。 「とりあえずレオ君が帰ってくるまで、ここでゴロゴロするかな、うん。」 「休憩もいいが、夕飯をとった方が良い。」 その声が聞こえた途端、私は目を開いて飛び起きた・・・ら、ソファから転がり落ちてしまったけれど。 背中の地味な痛みをこらえながら、慌てる声がした方を見れば、案の定ラインヘルツさんがそこにいた。 「ラインヘルツさん、一体いつから!?」 「り、了承はとったのだが。もしかして気付いていなかったのか・・・!」 「あー、すいません。よく周りにそれを注意されてたんですが、どうも治らなくって・・・。」 そう言って何時からいたのか聞いてみれば、どうやら軽く30分ぐらい前からここに居たようだ。(ちなみにレオ君はご飯を食べに行ったらしい。) なんでも私は、あともう少ししたらきりがつくので、待ってて欲しいと言ったらしい。 だからラインヘルツさんは自分の作業をじっと見守っていた・・・とのことらしい、けれど。 「覚えて、ないです。ごめんなさい。」 「そこまで真剣に作業してもらっていたという事だろう?申し訳ない、こちらこそ配慮が足りなかった。」 「いえいえ!三食おやつ付きにまでしてもらっていて、さらに気を使ってもらったら、私の方こそ申し訳なくなってくるので!!」 とりあえず彼に頭をあげてもらって、わざわざ持ってきてもらったご飯をほお張れたのは、もう少し後になってからの事だった。 (・・・あの、ラインヘルツさん。少し言いにくいこと、お聞きしてもいいですか?) (む、何かね。) (これって魔物を封印していた棺だって聞いたんですけど。) (ああ、私もそう聞いている。) (やっぱり私の聞き間違いじゃなかったんだ・・・。) (何か問題が?) (その、すごく言いにくいことなんですが・・・これって急いでやるようなお仕事ですか?) (・・・・・・。) (い、言えないなら大丈夫ですよ!!) back |