世界はまだ続いている 「おいおい、クラウス!そうじゃないだろう?」 そう言ってこちらに歩いてきたのは、スターフェイズさん。 どうかしたのだろうか、何かあったのだろうか。なんて思いながら、彼が歩いてくるのをぼーっと見ていると、自分の目の前で立ち止まった。 「え、私、に用ですか・・・?」 「そうだね。」 そう肯定してから、彼はにこやかに笑いながら口を開いた。 世界はまだ続いている ハロー、ミシェーラ。そっちはどうですか。こっちは何とかやってます。 最近新しい人が入ってきました。多分僕の後輩になるんだと思います。 「あ、レオ君。おはようございます。」 「おはようございます、ナマエさん。」 いつもの扉を開けると、最近ライブラに入る事になったナマエさんがソファーに座っていた。 このことにまだ違和感があるけれど、しばらくすれば慣れてしまうのだろう。 あの後、スティーブンさんが言った言葉というのは、要約すると「うちで働かないか?」だった。 正直あの人だったら言いそうだな、なんて思っていたから、別にその言葉を聞いた時は驚かなかったけれど。 「ここの生活や常識、知らないんだろう?そんな中、君一人で生きていけるほどここは甘くないよ。」 「うちで働けば、いろんな情報が入ってくるし。」 「あと、こっちでの常識だって教えてあげられるし・・・衣食住、金銭面だって保障しよう。」 凄い勢いで言いくるめようとしているのを見た時は、若干怖かった。 だけどそれを見ていたクラウスさんはというと。 「確かにそうだな。貴女さえ良ければ、ライブラに来ていただけないだろうか。」 「そうそう、大歓迎だよ。」 何だか裏のありそうなスティーブンさんの思惑には気づかないで、普通にそれに乗っかっちゃうし。 はじめは断っていたナマエさんも、最終的にはその提案に乗っかってしまうし。 ・・・なんというか、騙されやすそうな人たちだな。なんて思ってしまうのは仕方のないことだと思う。 まぁ、そんな感じで。彼女、もといナマエさんはライブラに所属することになったのだ。 「いやー、でもこっちはすごいですね。昨日あんな事件があったのに・・・。」 「ははは、世界危機レベルの事件はこっちじゃ日常的っすから。」 「・・・順応性が高いというか、なんというか。」 複雑そうな顔をしてそう呟いたナマエさんに苦笑いをしながら、彼女の向かいに座る。 正直もう少し事件になっても良かった事件なのだが、驚いたことにそこまでニュースにならなかった。 あまりに激しい戦闘のせいで、周りに野次馬がいなかったので、インタビューも出来なかったからじゃないかなと思うのだが。 多分、彼女が『直してしまったから』なんだと思う。 「まぁ道ぐらいなら、綺麗に出来ますよ、多分。」と言って、棘などを一瞬でなくしてしまったのだ。 このせいで、あまり被害が出てないとか思われたのだろう、とか勝手に解釈してみる。 けれどそれだけではなくて、彼女の能力、これが一番の要因である気がする。 「ん、レオ君。どうかしましたか?」 「あ!いや、な、何でもないです・・・!!」 いつの間にかじっと見てしまっていたようで、慌てて僕は視線を横へずらす。 ・・・話を戻そう。この人のもつ、錬金術、という能力は一言でいうと便利なのだ。 彼女さん曰く『珍しいものじゃないよ。』とのことだが、こっちからしてみれば珍しいし、魔法のように見える。 そしてそれは、悪いことに使われてしまう可能性もある・・・のだろう。 実際彼女の世界でも、それが悪用される事件が絶えないらしいし。 多分スティーブンさんは、彼女をライブラに入れることで、それを避けようとしたのだろう。 ただ単にその能力が目的・・・だったのかもしれないけれど。 「えっと、今日はどうするんすか?」 「あー、散策したいな。街を案内してくれると嬉しいです。」 「・・・そういえば、結局行けてなかったっすね。」 とにかく、だ。ナマエさんが危険な目に合わないように、公に結構な根回しをしたのだろう。 真実はどうあれ、僕はそうなのだと思っている。 「そだ、ナマエさん。」 「何でしょう?」 「ようこそ、ライブラへ!」 そう言って笑えば、ナマエさんも同じように笑い返してくれた。 back |