こうして世界は明日も続く 「うわ、じゃあ私どうしよう。路頭に迷ったぞ。」 頭に血が上って、いろいろやらかしてしまった気がするが、今はそんなことよりも自分のことしか考えられない。 自分がたてた砂埃が舞う中、どうしよう、どうしよう。そんな言葉が頭をよぎる。 目の前の十字架の残骸の一部が、地味に動いていることにも気が付かないぐらい必死に考えていたせいか。 「え、うわぁ!!」 突然足元から飛び出した手に足を掴まれる。 どうやらその腕は十字架の残骸から出ているので、吸血鬼の腕だという事が分かる。 動けるということは、術が解けたか、それとも他の理由か。 やっぱり研究途中の錬金術は実戦で使うもんじゃないな、なんて冷静に思っていた時だった。 私の視界にさっと入ってきた人影が、足元にいるであろう吸血鬼を吹き飛ばした。 「ライン、ヘルツ・・・さん?」 今は背中しか見えないが、あの厳つい・・・いや頼もしい背中を見てその人だと確信した。 そしてカランとかすかな音の方を見れば、そこに落ちているのは吸血鬼ではなく、小さな十字架。 唖然として見ていると、大きな影が私にかかる。 見上げてみれば、その影の主は先程私に背中を向けていたラインヘルツさんだった。 「貴女がいたおかげで、世界が救われました。ありがとう。」 そうぽつりと呟いて、私に手を差し出してくる。・・・多分、掴まれということなのだろう。 「・・・正直、街を破壊してしまっただけのような気がしますけど・・・。」 そう呟きながら彼の手を掴むと、引き上げられる身体。 そしてそこから見えるガレキの山を見て、思わず苦笑してしまう。 「それは被害を最小限にとどめた、という考え方もできます。」 「凄いポジティブな考え方ですね。」 彼の言葉に少し笑いながら、ズボンの汚れを払う。 暫くそんな私の様子を見ていたラインヘルツさんだったけれど、またぽつりと口を開く。 「レオナルド君を助けて頂いたことは、疑いようのない事実です。」 「まぁ・・・それはそうかもしれませんが。」 「それに。」 そう言って、ラインヘルツさんは視線を空へと移した。 何か見えるのだろうかと思い、同じように見上げてみるも、これといったものは見えない。 もしかしたら、この人には何か見えているんだろうか。 「もう一人、貴女は救っているはずだ。」 「・・・。」 「貴女は目を背けることもできたし、逃げることもできた。しかしそれをしなかった。」 その行動で、少なくとも二人が救われているのです。そのことだけは知っておいていただきたい。 私の目をまっすぐに見つめながらそう話すラインヘルツさんに、思わず言葉が詰まってしまう。 そして思い出すのは、先程友人になったあの人の笑顔。 「・・・そうですね。」 そう応えて、もう一度空を見上げる。 相変わらず何の変哲もない光景だけれど、なんだか特別な景色に見えるのだから、不思議なものだ。 「ラインヘルツさん。」 「はい。」 「私、もう少しこっちで足掻いてみます。」 新しくできた友達に、また会いたいですから。 そう言って笑顔を作って見せれば。 「今は見つからなくとも、諦めなければ必ず道は見つかる。私はそう思います。」 と頷きながら、そう答えてくれた。 (ところで、これからどうするのです?) (んー、どうしましょうね。とりあえずはこっちの生活になれることから、でしょうけど。) (そうですか・・・ならば、もし何かあれば仰ってください。いつでも力になります。) (あ、ありがとうございます。) back |