異世界と等価交換 | ナノ


世界を半分くれると言われても


・・・いったいこれはどういうことだろうか。

「・・・うそだ。」

目の前に見えるのは、がれきの山。棘で出来た素敵なオブジェ。
ぐるりと周りを見てみれば、最近知り合った人たちが唖然としてこちらを見ている。
そして極めつけに。

「え・・・は!?」

手にしていたフラスコは無く。
ということは目の前に舞っている、このキラキラ光る粒子は・・・まさか。

「え、待って、待って!!なんで!!」

フラスコだ。どうして分解されているのかは謎だけれど。
そう叫んでいる間にも、目の前の粒子は私をあざ笑うかのように、どこかへ溶けてしまっているようで。(科学的にどうなんだそれは)
必死に掴んだ一部ですら、開けてみれば、どこにもないといった具合だ。

「う、うそでしょ・・・なんで・・・。」

最悪だ。へなへなと力が抜けた膝が地面に着く頃には、それしか頭に浮かばなかった。


崩れ落ちる彼女を見て、隣にいるクラウスに視線を向ける。
そんな俺の視線に気がついたのか、少し戸惑ったような顔をして口を開く。

「・・・もういいんだろうか。」
「ああ、多分いいと思うがなぁ。」

そう返事をしていると、彼女が血の眷属のほうへと歩き始めているではないか。
なんだ、なんだ。立ち直り早すぎるだろう!?と思いながら、移動しようとしていた足を止めて、また成り行きを見るしかなくなる。

「あの。」
「あぁ?なんだよ。」
「あの陣って、あなた書いたんですか?」

今までのことを総合してみると、彼女はあの魔物と同じ世界の人間、という事でいいんだろうか。
・・・全く、このHLはとことん驚きに満ちているな。そう思いながら、彼らの反応を待つ。
もし彼女が世界に帰りたいがために、この世界を壊そうとするならば・・・なんて、想像したくもない未来があるかもしれないからだ。
そう思っていると、男はしばらく無言を貫いていたが、案の定頷いた。

「・・・そうさ!俺が書いたぜ!」
「だったら、さっさと教えてほしいんですがね。」
「それなら交換条件だ。俺に手を貸してくれれば、すぐにお前の世界に帰してやるよ。」

その言葉にピクリと反応する彼女。・・・ああ、これはもう嫌な展開じゃないか。
正直気乗りはしないが、これも世界のためだ。彼女を止めろと、ザップたちにコンタクトを取ろうとしたその瞬間。

「え、嫌ですよ。悪の片棒なんて担ぎたくないです。」

信じられない言葉が聞こえ、俺は目を丸くして彼女を見た。

「は!?お前、何言ってんのかわかってんのか!?」
「分かってますよ、その位の頭はあります。」
「帰れないんだぜ!?良いのかよ!」
「帰りたいですよ。」

永遠と続くようなそのやり取りに、あの子は一体何がしたいのかと頭を抱えてしまう。

「かの人は言いました。俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの、と。」

手のひらに何かを書きながら、そう呟く彼女に呆然としてしまう。
何ということだ。

「ということなので、力を貸さないけれど、情報を貰います!以上!!」

彼女、すごい無茶苦茶なことを言ってるぞ。


「・・・おいおい、もとは人間だったとはいえ、俺は吸血鬼なんだぜ?不死身相手に何が出来るっていうんだ?」

頭冷やして考えてみろよ。だなんていいながら、こちらを見下ろすこの人。
元は人間?だったらなおさら好都合だ。
見れば、身体を止めていた石にヒビが入り始めている。・・・早めにやらなければ。

「水、炭素、アンモニア、石灰、リン、塩分、硝石、硫黄、フッ素、鉄、ケイ素、その他もろもろ。」
「?」
「人体を構成している物質です。」

吸血鬼でも、もともと人間だったというのなら、話は早い。

「永遠に動けない体にしてやりましょうか。」

再生するというのならば、再生するそばから分解すればいい。
ああ、こんなところでこんな事したくなかったけどな。なんて思いながら、その頭にぺたりと手のひらをくっつけた。


「うっわ・・・なんか、うぇっ。」
「っぷ、やめろ、あれは直視するもんじゃねぇ。」
「・・・えぐいな。」

とりあえずクラウスさんたちと合流したけれど、僕は一体どうしたらいいんでしょうか。
耳に聞こえるのはネチネチと嫌な音。そして目の前にはモザイクをかけたいぐらいの光景。

「生きている限り、血管を破り、骨や肉を裂き続けるっていうやつですね。」

やっぱり昔の拷問方法は痛いしえげつないですね。なんて言いながら、シルフィンさんは少し離れた所で本を読んでいる。
・・・顔が真っ青なのは、きっと車酔いだけではないはずだ。

「痛みは知りませんが、永遠にあなたが動けないのは確かですよ。動くところから細胞、殺していくみたいなんで。」
「っこ、このアマぁ・・・!!」
「どうしますか。陣のこと、教えてくれますか?教えてくれたら開放しますし、もう私はあなたの邪魔をしません。」

そう相手に聞いている風を装っているけれど、これはきっと教えざるを得ないだろう。
僕だったら絶対そうするし。
そう思っていたら、暫くすると案の定彼は口を開いた。

「う、そダ!」
「嘘じゃないですって、これでも私、約束は守りますよ。」
「違ウ、それァ・・・もラ、タ!」
「は?」

貰った?と彼女が聞けば、彼は血を出しながら、頷いている。(・・・うわ、見るんじゃなかった。)
名前とかを聞いているが、多分知らないだろう。
貰った相手が吸血鬼なら、名前は絶対言わないだろうから。

「ということは、見ず知らずの人に貰ったということ、ですか・・・。」

身体をぶるぶる震わせながらそう言うと、シルフィンさんは静かに息を吸った。
悲しんでいるのだろう、そう思った矢先。

「ふざけんじゃねぇですよ。」

パリパリと音を立てる方を見れば、コンクリートで出来た巨大な十字架が造られようとしている。
これには僕以外の人も驚いていたようで、口をぽかんと開けている。

「酔いながらここまで来て、危険な戦闘もさせておいて・・・知らないとか。」

そう言って、もう一度さっきの言葉をぼそりと呟いている。
そして。

「天誅!!」

彼女がそう言った瞬間にその十字架は傾きはじめ。
ドガーンというような派手な音と盛大な土煙をあげて、十字架は男を潰すように倒れた。

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