さよならは幕間に 「おいおい。これは一体どうなってんだ。」 目の前の出来事にまだ動揺を隠せない自分は、そう呟くことしか出来ない。まず俺らの知るホムンクルスは・・・あんなに活発じゃない。そもそもガラスの中で生きている存在が、どうしてあんな風に外に出られるのかと問いたくなってくる。しかも彼女が魔物と同じ技を使えると分かった時点で、何がどうなっているのか分からない。 『見える』レオにそのことを目で訴えてみても、彼もよくわからないという様に、首をぶんぶん横に振るだけだった。 「伝承の領主はあなたと引き換えに、命を伸ばして貰ったんですね。」 「違う、あの人は関係ない。私が勝手に契約したことだ。」 とりあえず、今むやみにあの輪に入るのは得策じゃないな。と思い、肩をすくめてクラウスの方を見る。・・・どうやらクラウスも同じことを思っていたようだ。攻撃の手をやめて、携帯をいじっている。 「なぁ、クラウス。流石にそれは気が抜けすぎだろう・・・?」 「? レオ君から届いた諱を確認していただけなのだが・・・。」 「ああ、すまん。それは俺が悪かった。」 そんなことを言いあいながら、俺たちはあの3人を見守ることにした。 「それよりも、さっきの話はどういうことだ。錬金術師。」 「! おい、ちょっと待てよ!今はこいつらを叩きのめす時だろうが!」 「うるさい!私にとって大事なことだ。」 そうホムンクルスは言って、相手を石で動けなくさせてから再び口を開いた。領主や国はどうなったのか、そちらは今何年なのか、など。・・・もう異世界確定だな。なんて思いながらその問いに答えていく。あなたの国はもう滅んでしまいました。なんて言いたくは無かったのだけれど、そう言うしかない。そうしてすべての問いに答えた後、こっそりとホムンクルスの方を見てみると・・・。 「え。」 何故か笑っていた。あれか、何かが吹っ切れてしまったのだろうか。なんて思っていると、ふと目に入るのは石で固められた敵の男。彼の方は悔しそうに口を噛んでいるではないか。これは一体どういうことだ。と思っていると、ホムンクルスの口から「契約解消だ。」という声が聞こえた。 「ふざけんな、血の眷属は死なねぇ!俺との契約はまだ生きてる!!」 「でもあの人の国は滅びました。私はもう自由になっていいはずですよ。」 どうやらこのホムンクルス、主の命と国の繁栄の為に、この男に力を貸すという契約だったみたいだ。畜生!という声を聴きながら、そう理解した。・・・でも。 「帰れませんよね?この世界で生きるんですか?」 思ったことを口に出してみれば、目の前のホムンクルスはにこやかに笑った。 「それで帰れます。そのフラスコにある陣が、あの人のいる世界へ戻してくれるそうでして。」 まあ、あれは壊したかったみたいですが。なんていいながら、私の手からフラスコを優しく抜き取った。 「え。」 「使っても、良いですか?」 「でも、領主さんは・・・。」 「あれは生きているはずだと言っていましたから、しばらく探してみようと思います。時間はたくさんありますから。」 嬉しそうな顔で、そんなことを言われてしまったら、私は頷くしか出来ないじゃないか。 やめろおぉぉぉ!なんて声が聴こえた気がするが、そんなことよりも目の前にいるこの人が、淡い光に包み込まれているのをじっと見ることしか出来なかった。 「最後に、お名前を聞いても良いですか?」 「え・・・ナマエです。」 そうホムンクルスに答えると、彼はとてもうれしそうに微笑んで。 「ありがとう、ナマエ。」 今度は敵ではなく、友人としてお会いしましょう。と言って、光が薄れていくとともに消えていった。目の前に誰もいないのを理解したのと同時に、フラスコが地面に転がっていることに気が付いた。見た感じでは、陣もまだ残っている。ということは、だ。 「私も帰れる。」 そう呟いた後くるりと方向転換し、レオ君のほうを見る。相変わらず彼は強張った顔のまま、無言でこちらを見ていた。・・・最後ぐらいは何か言ってくれてもいいじゃないか。なんて思うけれど、さっきまでの行動を思い返せば、それも仕方がないかと諦める。 「じゃあ、レオ君。ありがとうございました。」 「え、ナマエさん・・・?」 やっと聞こえた彼の声に応えるように一回深々と頭を下げ、彼に背を向ける。ふと見えたクラウスさんたちにも軽く会釈をしてから、フラスコへと手を伸ばし。なんだか不思議な体験をしたな、なんて思いながら、目の前に広がりだした粒子に目を細めた。 back |