共闘と恐慌 「おー。いつみてもお前の技はほれぼれしちまうなあ!」 「それはどうも。」 「ったく、相変わらず冷てぇのな。」 この惨状の中、そんな会話が聞こえてくる。 「契約さえなければ、誰が貴様なんかとつるむか。」 「あーもー、分かってるっつーの。」 声の主はいわゆる僕たちの敵で。未だにこの現状を把握できていない僕は、目を白黒させていたけれど。自分の役割を思い出し、今のうちに諱名を読み取ろうと目を開く。 しかし、 「今何をしていた。」 その声と同時にコンクリートの壁が現れたかと思うと、その壁から急に棘が出て来るではないか。間一髪というか、クラウスさんが僕の体を引っ張ってくれていなかったら、思い切り刺さっていたに違いない。 「こいつに力を貸すのは不本意ではないが、対価分は働く。・・・邪魔をするな人間。」 血の眷属に異界の魔物がセットだなんて、最悪な組み合わせじゃないか。僕は最後の切り札が壊されないようにしっかりと抱えなおした。 「・・・やっぱり。」 ガラスのやつを復元してみて、だんだん出来てきた形と模様に嫌な予感がよぎる。急を要すると考えて錬金術で欠片を全てつなげれば、目に入ってきたのは見たことのある形で。 「ギルベルトさん!いらっしゃいますか!?」 「はい、ここに居りますよ。」 何かあったら呼べと言われた人の名前を呼べば、何処からともなくさっと現れた。・・・包帯でぐるぐる巻きというのを見て、この人に何か頼んで良いのだろうかと思ってしまったのは内緒だ。けれど、そんなことを言っている場合ではない。 『魔物』の正体が掴めたのかもしれないのだ。 「外の状況って分かったりしますか?」 「ニュースでやっていると思いますが。」 そう言って違う部屋に連れていかれ、この前見たテレビよりも小さいものに彼は電源を入れる。そしてそこに小さくだがクラウスさんたちが戦っている姿が映し出されている。 今の世の中、本当に便利になったもんだ。だなんて一人心地ながら状況を確認してみれば、ねじ曲がったビルの壁や道路から飛び出した棘。そして、砂ぼこりの中にたまに光る何かを見て、私は確信する。やはり初めに復元したのはただの箱だったようだ。 「すみません。ここまで私を連れてってくれますか?」 巻き込まれたくはなかったけれど、これは私の領分だ。若干渋る彼を説得して、車に乗り込んだ。 「ったく、キリが、ねぇな!!」 そう言ってザップさんが目の前に出てきた棘を切り倒し、横から出てきた壁をクラウスさんが叩き割る。血の眷属じゃない方が出してくる技によって、奴らに近づけないし、何より諱名を読み取ることができないのだ。 「あいつを封じ込める箱、出来たんじゃないんでしたっけ!?」 「いや、持ってきてますけど!って、うわ!!」 そうツェッドさんの言葉に返事をしていると、目の前から突然壁がでてきて倒れてくる。 「あ、っぶな!」 攻撃をするすべを持たない僕は、ただただ逃げ惑うことしか出来なくて。くそう、やっぱりさっきの間にちゃんと見ておけば良かったな、なんて思っていた時だった。避けた壁の上に誰かが乗っているのに気が付いた。 「おい。封じ込める・・・なんて言った?」 「え、あ・・・。」 見ればそこには血の眷属がいて、僕の腕の中にある箱を見つめている。 「そうか、それの中か。」 そして面白いものを見つけたと言わんばかりの顔をして、こちらに向かって走ってくる。 中って何だよ、この箱が封印の棺なんじゃないのかよ! なんて思いながら、彼女の言ったことが本当になってしまったことに焦りを感じる。とりあえずこいつを撒いて、読み取れた名前をクラウスさんに送信して・・・と順序を考えながら逃げるも、案の定あいつの方が行動が速い。足元が急に暗くなったのをみて、上を見上げてみれば。 「押しつぶしちまえば、それもろともバリバリの粉々になるよなあ。」 ビルの一部が頭上から降ってくる。クラウスさんたちは向こうの攻撃に阻まれて、こっちに来ることが出来ないらしい。僕を呼ぶ声が耳に響くが、恐怖のあまり足が動かない。むしろこの大きさだと、どうにか走ってもペシャンコだろう。死亡フラグが立っていたのはどうやら僕の方だったようだ。ああ、ミシェーラ。不甲斐ない兄ちゃんでごめんな。 そう思いながら、ぎゅっと次に来る痛みに目を瞑ってしまった。 「おい、レオ!」 目の前の棘を薙ぎ払いながら、落ちてきたビルの方を見れば、ぐしゃぐしゃになったビルが砂ぼこりの間から見える。俺の言葉に返事をする声は、聞こえない。聞こえてくるのはキリがないくらい生えてくる何かの音とそれを壊す音。そして俺と同じようにあいつを呼ぶ声と、上機嫌な鼻歌ぐらいだ。 「てめぇら、よくもやりやがったな・・・!!」 もうただじゃ済まねぇ。と呟きながら、地面もろとも棘を切る。 そんな時だった。 「お前、何で邪魔しやがる!!」 突然そんな声が聞こえ、少し離れた場所にいる、すましたやつの眉が上がる。 「邪魔?何のことだ。」 「とぼけんなよ、こういうことができるのはお前だけだろうが!」 ちらりともう一度さっきの方を見れば、ビルの上部分が何かに支えられて地面についておらず、斜めになっているのが見えた。うっすらでしか確認できなかったが、どうやら太い柱がビルを支えているようだ。そしてそこから聞こえてきたのは女の声と。 「レオ君、無事、ですかね。けがは?」 「え、俺、生きてる・・・?」 そんな間延びしたあいつの声がして、俺は大きく息を吐いた。 back |