碧と紺と 「こんー!紺ー!」 なんだか狐の鳴き声のようになってしまったが、己が呼んでいるのは先日の忍びの男の事である。普通にして呼んでいれば応えることはあまり無いのだが、気配が近くにあるのはうっすら感じる事が出来た。忍びって特性がステルスなんだと思う。すごい。 「紺ー・・・」 近くにいるのに反応がないとか傷つくんだけど。ぐすり、と鼻を鳴らしてみせれば、気配が少しだけ揺れた気がした。 「ふぇ・・・」 泣くぞー、泣いちゃうぞー!と子供故の脅しをどこにいるか分からない相手に向かってやってみれば、案の定軒下から黒いのが飛び出して来た。軒下とか忍ってずっとそんな所にいるんですか、不憫すぎる。 「なんでしょう、若君。」 「いいから、きて。」 頭巾にかかった蜘蛛の巣を手で叩けば、汚れてしまいます、と静止の声を頂いた。残念、止めないけどな! 「お止めください。」 「なら、はやくきて。」 こっち、こっちと誘導したのは己の部屋である。座って、と言えばどこか神妙な面持ちで正座をされた。 「あのね、これ。」 手を出して、と相手に強請れば、恐る恐るといった様子で掌が目の前に降りてくる。それの上に懐から出した包みをぽんと置けば、紺は丸い目をさらに丸くさせた。 「これは?」 「にいさまからもらったの。おかしだって。」 この時代は菓子はとても高価なものらしくて、あまり食べられないらしいんだけど、実はあまり俺はこの時代のお菓子はあまり好きじゃない。団子とかならおいしく頂くのだが、いかんせん兄が己に下さったのは干菓子。つまり砂糖の味しかしない固まりだ。もう砂糖そのものだと言っても良いだろうか。 「あげる」 にこりと笑えば無邪気に見えるだろうか。兄様に返すのも恐れ多いし、かといって捨てるのはもったいないし、自分では食べたくないし。となれば見知った人にあげるのが定石だろう。あと口の堅い人というのが絶対条件だ。 「勿体無うございます。」 「でしょう、だからあげる。」 「?」 「いますぐたべて?」 子供ならではの我が儘だと侮るなかれ。もぐりと口に含んで飲み込むのを確認してから、口を開く。 「たべたね?」 「はぁ・・・」 「たべたら、ゆきにはなしをするのだよ」 条件が後だしなんて卑怯だとは思うが、子供って卑怯なもんだから許してください。さて、洗いざらい話してもらおうか、というと悪役みたいだな。己の後学のために世界を教えてもらいたい。 「・・・しっていること、おしえて、ね?」 さて、今後の人生に必要なピースを集めていこうか。 碧と紺と back |