小蛇と餓鬼2 「友というわりに、卿はよそよそしいな」 茶の湯の作法が解らぬ、と言った己が色々スパルタな松永氏にようやく許可を貰って飲み始めた薄茶。それを思わず噴きそうになって堪える。 「い、いきなり何を。」 「いや、卿と友になって久しいが、卿は変わらぬな。」 「えっと?」 「友とは親しみを込めて、名を呼び交わすと聞いたが。」 「え。」 さすがに様付けは止めたんだが、まだ彼は物足りないらしい。流石に渾名や呼び捨ては年上の国主である男には駄目だろう。私は伊達の嫡子ではあるが、第二子であり、国を継がない己とは位が違う。 「松永さんでは駄目ですかね?」 「それがよそよそしいのだよ。」 そう言う松永さんの卿呼びも他人行儀であるから、今さらなにを、という話なのだが。 「松永、と呼べと?」 「卿は私の名前を知らないのかね?」 いや、知ってはいるけど。 「弾正さん?」 「・・・・・・。」 「久秀さん?」 「久秀、と。」 にやり、と面白いくらいに口許をあげる男に苦笑いする。二人だけだから無礼講だとしても将来的にうっかり呼んでしまう癖が付いたらどうしてくれるんだろう。あ、爆殺か。 「それでは久秀、私にも名前がありましてね。」 「ほぅ、初耳だな。」 「え"、」 「冗談だ、神童殿。」 どうやら、さっきの仕返しのつもりらしい。 「・・・名前を呼び交すのでは?」 「いやはや、そうだったな。雪之丞。」 「長いので、”雪”で構いませんよ。どうせ元服したら変わるでしょうし。」 そう返せば、不服と言わんばかりに男は鼻を軽く鳴らした。 「怖い、怖い。」 「思っても無い事を。」 「どうでしょう。」 ふふふ、と笑えば目の前の男もまた同じように笑った。それを離れがたく感じてしまう程、目の前の男に緩やかに依存しているらしい。安寧の闇と、奥に渦巻く炎が温く冷えた己には心地よい。呼び名など些細な言葉ですら、己たちの間には実は無用で、本当に必要なのは己を満たす純粋な欲。 「卿が思っている事を、当ててやろうか。」 「奇遇ですね、私もそう言おうかと思っていました。」 腹を空かせた、似た者同士 それは友というよりも。 back |