万華鏡 | ナノ


碧色見聞触


「・・・引きこもってないで、外にでもでてらっしゃい。」と紺に外へ放り出された。あの男はだんだんと母親のようになってきている。おかしい。仕方なしに庭をぶらついてみたものの、特に一人遊びが得意な訳ではないため、早々にやる事をなくしてしまった。

この時代、ひとりで遊ぶための道具なんてほとんどなくて、ゲームとか前のような楽しみ方は出来ない。工夫次第でどうにかなりそうな遊びはお手玉やら剣玉やらだろうか。正直すぐ飽きそうだ。

「よし、城下へ行こう。」

なにか面白いものでも売っていれば儲け物だが。そこそこ賑わっている城下町にむけて歩き出す。うしろに感じる気配は心配性な忍びの部下の気配だろう。本人は今日は忙しいと聞いたから。

開けた一本道をひたすらに下り、町の入り口にたどり着く。前に降りたのは一季節前だったか。賑わい合う町並みはあまり変化はないものの、少しずつ発展を遂げている店々は前回来たときと品を変えており、目を楽しませる。

呼び込みの男共の声、姦しい女たち。活気のある城下をうろうろと歩いていれば、ふと珍しい外観の店が目に入る。前に見たときにはまだこの店は無かったように思うから、きっと最近建てられた店なのだろう。

「ば、さ、ら、や。」

婆娑羅屋、と書かれた立て看板に首を傾げる。どこかで聞いた事のある響きだ。しかも生前に。懐かしさというよりなにか嫌な予感しかしなかったが、ふらふらと吸い寄せられるように店の敷居を跨いだ。

「・・・・・・。」

店の前には煌びやかな装飾品、楽器、武器、衣装など様々な面妖なものが並ぶ。中には新鮮な野菜まで並んでいるのだから面妖であるとしか言いようが無い。

「なんでもや、の間違いじゃないのか。」

きょろきょろと店を見て回れば、人の良さそうな中年の男が店の奥から顔を出す。
「へぇ、いらっしゃいませ。」と明るい声で声をかけた男はにこやかな笑顔を浮かべながら俺の足下から頭までをじっと見た。

「ここは、なんのみせだ?」
「へぇ、婆娑羅者が扱う道具を中心にあらゆるものを揃えさせていただいております。」
「ばさらもの?」

婆娑羅者、とでも書くのだろうか。首を傾げた俺に、少しだけ店主は驚いた目をした。

「若君も婆娑羅者だと聞いておりますが。本日はなにをお求めで?」
「・・・おもしろそうだな、とおもって。」

ちらりと覗いたものの、値段をみて思わず店を飛び出したい衝動に駆られていたからだ。いくらなんでも高すぎるだろう。並べられた武器一つ買うのに千両箱がいくつも必要に成る程の金額だと思っていなかった。

「婆娑羅者はそもそも体の作りが違いますからね、普通の武器等では耐えられないので、私どもが中心にその方に合うように品物を作らせていただいております。」

オーダーメイドの特殊武器となれば値が張るのは解るのだが。いささか一般には手のでない値段だ。「それにお客は主に戦に出る武将やお殿様になりますので、このくらいが相場ですよ。」と、思っている事が顔に出ていたのか店主が悪戯っこのような顔を浮かべながら笑う。

「若君は氷の婆娑羅者だと聞いています。まだ伸び白もありますし、初陣に出る頃くらいにまた立寄りください。」
「・・・・・・ちちは、なにかかったのか?」
「父君はこちらの雷刀をお求めになりました。」

そういえば父の異能は雷だったか。兄にも異能が開花しつつあると父は言っていたが、将来的に兄もきっとこの店に来て武器を買って行くのだろう。

「ほかのもみせてもらえるか? おのれにあうものをさがしているのだ。」
「他の方の武器は、他の方にしか合わないと思いますが。」
「・・・・・・かっこいいぶきがあれば、みたいだろう。おとことして。」
「左様ですか。それではこちらへどうぞ。茶でも御出ししましょう。」


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