万華鏡 | ナノ


蒼い心


先日の一件があってからどうにも弟の顔をまともに見れなくなってしまっていた。怖い、のだろうか。異能については父も、その側近も持ち合わせる能力だから怖くはないはずだった。ただ、それが本当に命に関わるものだとは思ってもみなかった為に、その力を意思でないとはいえ己にむけられて平気ではいられなかった。

振り払った手を、廊下でふと立ち止まって眺める。まだまだ小さいこの掌。弟の雪之丞の掌はさらにこれより小さい。先ほど逃げてしまう前にすれ違った視線はどこか傷ついたように歪んでいて。

「・・・・・・俺は、」

俺はお前が怖いよ、雪之丞。
異能だとかお前の大人びた言葉とか仕草じゃなく。俺の心を見透かすような目が。

「こわい、こわいんだ。」

俺を殺すかもしれないその力が、叡智が。俺は怖くて仕方が無い。父の会話を少しだけ盗み聞きした際に、父が雪之丞が長兄であればと言っていたのが耳から離れない。

「俺は・・・」

俺には無い叡智と異能を持つ可愛い義弟。俺には、なにもない。弟ほどの叡智も、異能も。あるのはただ正妻の、先に生まれたという事実だけ。どちらが優れているのかなんて解りきっている。ただ気まぐれに遊んでやれば、ふいに笑顔を見せる子供らしい顔に安心していた。弟が出来ない事を見つけるたびに、心配そうな顔をしながら心のどこかで嗤い、その心を見透かすような弟から逃げた。弟のことは愛している、ただ同時にそれは酷く憎らしかった。

「悪い、兄貴だ・・・」

あんな顔をさせたかった訳ではなかった。でも、その手を取る事はどうしてか出来なくて。ただ傷ついた顔をする弟にかける言葉もないまま、胸だけがきりきりと痛みを告げる。

「雪之丞・・・ごめんな・・・」

何も悪くない弟。ただ、恵まれて生まれて来てしまっただけの弟。それに嫉妬するのもお門違いだとは解っている。
それでもお前が酷く憎い。


蒼い心

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