万華鏡 | ナノ


碧の憂鬱


今日は随分と城が騒がしい。城下に降りる許可を頂いてから暫くたつが、城からお忍びで城下へ降りた際にも祭りの話しなど聞かなかった。先日、己が忍びの紺から聞いた情勢を考えても、思いつく事は無い。

「きょうはなんのひ、だったっけ?」

戦、ではないだろう。凍てつくこの冬に雪に守られた城を攻める者など余程の酔狂である。しかも今日は紺を一度も見ていない。父から所有権は自分に移ったとはいえ、給金などは伊達の家から出されている。つまり己が命を下してない時間はその分に応じた働きを伊達のほうから言いつかっているらしい。

「・・・わたしがよんでもこないとは、なにごとだ。」

それほどまでに忙しくしているのだろうか。ならば今日は本当に何の日なのだろう。解らぬ事に、見えぬ影に苛立ちを隠す事もせず、廊下を音を立てて歩く。その間も目を走らせていれば、久方ぶりに蒼色の着物が映った。

「あにうえ・・・」
「・・・っ、・・・雪。」

一度だけ合った目は気まずそうに伏せられ、避けられた。

「急いでるから、またな。」

またな、と言葉は変わらないものの、兄の言葉には以前のような感情は含まれてはいなかった。やはり、兄には受けれ入れてはもらえないようだ。歴史は多少異なるものの、やはり、兄との袂は末に分たれているのだろうか。行く先に待つのはやはり変えられぬ森羅万象、定めであるという事なのであろうか。

「あにうえっ・・・!!」

その場に留めようとする掌は、いつかの逆で。伸ばしても、兄の背はどんどんと早足に去って行ってしまう。どうすればこの小さな己の手に、幸せを抱える事が出来るのだろうか。

碧の憂鬱

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